氷河期世代、「未来が見えなかった30代」の先で彼女が手に入れた《陽の当たる部屋》。「ちゃんとしようと思って生きてきた」

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澤さんが家を購入したのは、今から6年前の43歳のとき。それまでは都内の賃貸を転々としていた。「家を買いたい」と思ったのは、最後に住んでいた人形町の物件で、家賃の大幅な値上げを告げられたから。

「間に入っている不動産屋さんの対応もひどくて、嫌になってしまって。日本の法律では借り手が強いから、法定更新*をするなど、値上げに抵抗する方法もあったかもしれません。でも『もういいや』って、値上げを受け入れました。

ちょうど母ががんを患って、頻繁に故郷の大阪に帰っていた時期だったんです。そんななかで、嫌な思いをしてまで交渉する気力がなかった。そのとき、賃貸はどこまでいっても他人のモノだから振り回されてしまうんだなと思いました」(澤麻紀さん 以下の発言すべて)

*法定更新とは契約終了までに契約更新に関する同意がなされなかった場合、借地借家法に基づきそれまでの契約内容・条件で契約が自動で更新されること

賃貸住宅に嫌気がさしたものの、当時は母の看病で仕事をしながら東京と大阪を行き来する日々。まともに家探しをする時間は取れなかった。澤さんが今の家の購入を決めたのは、半年ほどして母が亡くなった後だ。

母の写真
母の写真にはいつもお供えを。実家で飼っていた動物たちの写真も一緒に飾って。母はプロの編み手で、影響を受けて澤さんも編み物好きになった。他にも動物の世話をすること、近所の人と親しく付き合うこと、お金まわりの備えなど、母に教えられたことは数知れず(撮影:今井康一)

「私は母が大好きなので、いつかまた大阪で一緒に暮らす未来があるような気がしていました。でも思ったよりもずっと早く母がいなくなってしまって、帰る場所もなくなった。だったら、自分の好きな場所で好きなように暮らしていこうと思って」

そんなタイミングで、この部屋に出合った。

「1階なのに、すごく光が入る部屋で、それが即決の理由です。売り主さんがすでにリノベーションまでしていて、その内装は私には響かなかったんですが、日当たりとか立地などの動かせない部分が気に入ったので、他は後から手を加えればいいと思って。購入してから、ほぼフルリノベーションして今の形にしました」

ロスジェネ世代、「30代の頃は未来が見えなかった」

渋谷区の瀟洒(しょうしゃ)な住宅街に佇むヴィンテージマンションに居住。最近はひとりで行動できる世界を広げたいと願い、一念発起して運転免許を取得し、同時に新車も買った。

圧倒されるほど立派に生きているように見えるが、決して恵まれた時代を生きてきたわけではないという。

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