
死にたいほどの絶望の淵にあっても、時間をかければもう一度やり直して幸せになれる――。2年前に再婚した小松孝太郎さん(仮名、57歳)の話を聞きながら、確信のようなものを感じている。
ここは愛知県三河地方にある町寿司。満席のにぎわいの中で終始にこやかな孝太郎さんは根っからの酒好きらしい。お通しの段階でビールからのレモンサワーに切り替わってどんどん飲んでいる。隣でやはりニコニコしているのは妻の真美さん(仮名、53歳)。小柄だが目の力が強く、パワフルな印象を受ける女性だ。
45歳のとき過労で「キレた」
この町で生まれ育ったという孝太郎さん。地元の高校を卒業してから大手自動車部品メーカーに就職、という愛知県ではよく見かける経歴の持ち主だ。31歳のときに10歳年下の明子さん(仮名)と結婚し、2人の子どもに恵まれて、40代には管理職に昇進した。しかし、安泰に見えた家庭生活に急な終わりがやってきた。ある日突然に「辞めます」と上司に告げて、翌日からは会社に行かなくなった。孝太郎さんが45歳のときだ。
「そのときまで25年以上勤めていた会社です。でも、車で片道1時間半ぐらいかかる拠点に通勤していて、残業もしなければならないので毎日12時間以上の拘束時間です。疲れて家に帰ったら子どもの寝顔を見るだけ。なんだろ、この人生は!と急にキレてしまいました。それにしても唐突な辞め方ですよね。自分でも不思議です」
孝太郎さんは管理職になってから「大卒社員にはかなわない」という思いを募らせていたとも明かす。負け続けの3年間だった、と。ならば転職活動をすればいい気もするが、新卒入社の会社で25年も働いているとそのような切り替えは難しいのかもしれない。疲労とストレスも限界まで高まっていたのだろう。
「専業主婦の嫁さんとの仲は悪くありませんでした。でも、『なんで私に相談もせずに辞めたの? これからどうするの?』と聞かれました。当然ですよね。『俺が何とかするから、黙っとって』と返すしかありませんでしたが、働く気がまったくなくなったので何とかしようがありません」
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