おそらくは1990年代半ば以降の長期停滞に伴う食に対する意識の変化と、「不安からの連帯」がその深層にあると考えられる。
近年、顕著になってきているわたしたちの食べ物への関心やこだわり、あるいは日本の食文化を誇るナショナリスティックな振る舞いは、低成長下の経済において相対的に楽しみや幸福感を得る手段としての重要性が増していることの現れといえる。
そのため、それらの信頼性を揺るがすような出来事により敏感になっている可能性がある。しかも、この敏感さには、食の安全をめぐる不安の共有が影響している。不安の共有による一時的なつながりによって、自分たちが重視する価値や規範を確かめられるだけでなく、容易に感情を満たすことができるからだ。
まず経済的な背景要因については、「失われた30年」という言葉に象徴されるように、日本はバブル崩壊以降、諸外国と比べて低い経済成長率が続いている。また、最近は、給料がアップしても物価高騰などのために実質賃金が上がらず、働く人々の生活が苦しい状況が続いていることが挙げられる。
そうなると、娯楽はより安価で身近なものへとシフトしていくことは否めない。近年の「町中華」ブームはその典型といえるだろう。町中華とは、大衆向けの安い中華料理店のことで、年季が入った外観やメニューなど、いわゆる昭和っぽさが売りになっている。料理の仕込みから閉店までを密着したYouTubeの動画も人気を集めている。
動画では、町中華だけではなく、地元の人々に親しまれている定食屋やそば屋、ラーメン店なども同じく注目の的になっており、さまざまな地域・地方の食文化を楽しむフードツーリズムの起爆剤にもなっている。ここには既存の食べ物の再発見と再評価によって娯楽を創出するメカニズムがある。
食を通じた“自尊心の回復”
そして、その根底には、食を通じての自尊心の回復があることが見えてくる。
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