写真家・ヨシダナギ、“東京脱出”の真相 島に移住して得た心の平穏と少数民族への熱情
「今回はもうダメかな……」と諦めかけた最終日の朝、逆光の時間に合わせてモデルを岩の上に立たせる。今だ! とシャッターを切るも、やはり思っていたような絵が撮れない。なるべくバリエーションを多くおさえるため、ヒッキーという名のモデルを同じ場所に立たせた。すると、一瞬だけ待ち望んだ光が降ってきた。これだ! と直感しながらシャッターを押したヨシダナギは、すぐに別のモデルを同じ場所に呼ぶ。その瞬間、光が陰る。ふと閃いて、ヒッキーを呼ぶと、再び彼に後光がさした。

ヨシダナギは、不思議に思った。ヒッキーはこれまでモデル経験がないうえに、誰よりも優しい性格で、撮影期間中に「怖い顔をして」と指示を出しても恥ずかしがって、勇ましい姿が撮れなかった。ところが、この日、この時だけは、まるで別人のように迫力のある表情とポーズを見せた。
「ヒッキーが選ばれたヒーローなんだな」
ヨシダナギはそう感じて、撮影を終えた。ヒッキーの写真は、第2弾ベスト作品集「HEROES -RELOADED-」の表紙を飾る。
ヨシダナギの新たな目標
クラウドファンディングで得た資金によって、ほかにメキシコとインドで3民族を撮影し、「HEROES -RELOADED-」は完成した。
メキシコのチチメカ族の撮影時には、「できることはなんでもするから、ぜひチチメカのことを多くの人に知ってもらいたい」と感謝され、リーダーの男性から「命の次に大切」という杖をもらった。

標高3800メートル、マイナス25度という過酷な環境での撮影となったインドのラダックでは、モデルの女性たちが「寒かったけど楽しかった」と最後に踊りを見せてくれた。

この旅を終えて、ヨシダナギは決意を新たにした。
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