漬かるまでの時間は常温時の2倍かかるが、それでも20~24時間もすれば食べ頃になる。たとえば晩に野菜を仕込めば、翌日の夕飯には切るだけで美味なる一品を食卓に出せるのだ。
基本的には野菜を取り出す際にかき混ぜればよく、旅行や出張で1週間ほど家をあけても問題ないらしい。もし帰宅後に漬かり過ぎていたら、「生姜や大葉など薬味を足し絞って食べる『かくや』にするとまた美味」と、開発者の野田善子さん(72)はアドバイスする。
一般的には夏野菜が出回る6月頃がぬか漬けの仕込み時だが、今はどんな野菜も通年で入手できるので、これさえあればいつでもぬか漬けができる。気軽に始められ、管理が楽なので、「働く女性など忙しい方の購入も多い」と、善子さんは話す。
きっかけは、主力商品の売れ行き不振
善子さんがこのすばらしき「冷蔵庫保存」に目を付けたきっかけは、昭和の時代にさかのぼる。当時、同社には「漬物ファミリー」(現在は廃番)というタンク型の漬け物専用容器があった。1976年に発売され、一時は生産が追い付かないほどのヒット商品だったが、次第に人気が衰え、1980年代に入る頃には徐々に売れなくなってしまったという。そのワケは、集合住宅の普及にある。ぬか床の置き場所に適した冷暗所が姿を消してしまったのだ。
しかし、皆がぬか漬けを嫌いになったわけではなかった。漬け物屋いわく、「いちばん売れるのはぬか漬け」とのこと。そして、善子さんはひらめいたのである。「冷蔵庫で漬けたらどうだろう?」。
試してみたら、実においしいぬか漬けができた。しかも、かき混ぜるのを忘れてもぬか床がダメになることもない。「あとは、コンパクトかつ便利なサイズにすれば使ってもらえる」と、善子さんは確信した。
電気屋であらゆる冷蔵庫を測り、たどり着いたのが、幅25.5×奥行16×高さ12センチというサイズ。どの冷蔵庫でも棚を外さずに収まり、前後に瓶詰などほかの物も置けるゆとりが確保できるという。「冷蔵庫は女性の宝箱」と考える、善子さんならではのこだわりが凝縮された究極の設計だ。商品には、野菜から出た水分を取り除く「水とり器」と、ぬか漬け作りの説明書も添えた。
こうして時代の変化に合わせ2001年に発売された「ぬか漬け美人」は、7年後にはLサイズも追加されてロングセラーとなったわけだが、根本要因について善子さんはこう分析する。「ぬか漬けは白米に合う。日本人が好きな味なのでしょう」。実際、年代や性別を問わず売れているそうだ。特にメディアの影響で、この日本人特有の潜在的な“ぬか漬け愛”がくすぐられてしまう人は多い模様。2008年に新聞で取り上げられた際には、問い合わせの電話が鳴りやまなかったという。
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