あまりに脳天気な「国の利払い費は増えてもOK」論 上がる長期金利、あの利息にこの収入…悪あがきを斬る

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では、物価上昇局面で税収も増えているのだから、それで増える利払い費が賄えるという見方はどうか。

確かに、税収が増えた分は、国民に「還元」しなければ、財政収支の改善につながるし、利払い費にも充てられて、政策経費をそれだけ圧迫しないで済むかもしれない。

しかし、増えた税収を国民に「還元」せよという声は大きい。国民に還元、つまり減税すれば、それだけ財政収支は改善しないし、利払い費に充てる税財源も減って、政策経費をそれだけ圧迫する。この関係だけは不変である。

増える税収で利払い費を賄えない

そういえば、2010年代に消費増税の是非が問われていたころ、「景気をよくすれば、増税をせずとも税収が増えて、それで財政赤字も減らせるから増税は必要ない」という言説があった。今となってはどうだろうか。

2019年10月に消費税の標準税率を10%に上げて以降、大きな増税はせずとも税収は増えている。しかし、物価高の生活苦を緩和すべく減税や給付が大規模に行われている。そして、内閣府の中長期試算では、2025年度のプライマリーバランスの黒字化は達成できないという結果が示されている。

結局、「増税せずとも税収が増えて、それで財政赤字も減らせる」という言説は、空手形に堕している。この言説が、いかに場当たり的だったか。

それに、税の自然増収では利払い費を賄いきれないのが実態である。

2025年1月に国会に提出された「令和7年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、想定よりも名目成長率が1%上昇した時の一般会計税収は、3年後には増税をせずとも3.1兆円増えるのに対し、金利が1%上昇した時の一般会計の利払い費は3年後に3.7兆円増える。

つまり、成長率と金利が同率で上昇しても、税の自然増収より利払い費の増加の方が多いのである。

現実に反した脳天気な財政の見方は政策判断を狂わせる。わが国の財政構造は、そうした状況にあるという現実を直視しなければならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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