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関税を課すだけでなく「半導体産業も奪われる」、台湾で広がるアメリカへの不信。社会が分断し、中国に有利な状況も生じていく

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トランプ大統領とTSMCのCEO
TSMCの魏哲家CEO(右)は3月にホワイトハウスでトランプ大統領と対米投資を発表したが、台湾では不安と反感が渦巻く(写真:Doug Mills/The New York Times)

この半年の間に打ち出されたトランプ米政権の通商政策が、台湾社会に複雑な波紋を広げている。

トランプ大統領が4月2日に、貿易相手国・地域別に課す相互関税を発表した。台湾の関税率は日本などよりも高い32%に設定された。同月中旬に行われた世論調査(美麗島電子報民調)で、頼清徳総統の政権運営に対する満足度は、前月の56%から47%へと大きく下落した。

内政面での要因もあったが、トランプ関税の衝撃が大きな引き金になったとみられる。その後、8月7日に台湾の相互関税率は暫定的に20%に引き下げられたが、市民団体が発起し、民進党も支援した国民党議員に対する大規模なリコール運動(7月26日および8月23日に投票実施)が不発に終わったことも影響して、頼政権に対する満足度は8月には31%にまで低下し、10月になって支持率はようやく40%に回復した。

この間、鄭麗君・行政院副院長(副首相)が率いる代表団が、相互関税、通商拡大法232条に基づく分野別関税、対米投資等をめぐってトランプ政権との交渉を続けているが、その結果次第では、再度、頼政権への打撃となる可能性がある。

ライバル日本の円安に悲鳴上げる台湾企業

トランプ政権による一方的な高関税政策に振り回され、人びとが不満を募らせているのは台湾に限ったことではない。しかし、台湾では、アメリカの台湾防衛コミットメントに対する不安、中国に対する脅威認識の高まり、激しさを増す政党間対立といった要因があいまって、トランプ関税が思いも寄らぬハレーションを引き起こす可能性がある。

この背後には、台湾に固有の経済的、政治的背景がある。まずは経済的側面をみよう。

現在、台湾に暫定的に適用されている20%の相互関税率は、日本や韓国が合意に達した関税率である15%より高い。また、日本やEUとは異なり、既存の関税率に20%が上乗せされる方式だ。

これは、台湾で「伝統産業」と呼ばれる工作機械や金属・プラスチック製品といった産業への負の影響が大きい。これらの業種で台湾企業は、近年の台湾元高と円安により、アメリカ市場においてライバルである日本企業に対し不利な状況に置かれている。ここに日韓より高い関税率負担が重なり、多くのメーカーが悲鳴を上げている。

他方、台湾の輸出の半分以上を占める半導体およびその派生品(コンピュータ、ネットワーク機器等)については、現時点では分野別関税率が発表されておらず、相互関税の対象外でもあるため、輸出への直接的な影響は生じていない。ただ、これらの産業でも台湾企業はトランプ関税に振り回されている。

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