「死にます」と投稿してフォロワー6000人のその後 若くして糖尿病に、家族と縁切れ、銀行系ローンから督促電話も

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以前の状況に戻りたいかを尋ねる質問に、Yさんは「これは難しいです。承認欲求は満たされるので嬉しかったり、リプがウザいと感じることもありました。今もあります」と率直な心境を明かしてくれた。

確実に言えることは、X上やリアルでの激しい変化にYさんの心が揺らいでいるということだ。

「生きれるなら」

Yさんは揺らいでいる。「もうすぐ死にます」と名乗ったときも決意が固まっている一方で、心の別のレイヤーでは揺らいでいた。だからこそ、警察に保護されたあとに「k」を経て、能動的に「生きます」としたのだろう。2度と「死にたい」と書かないと上申書に書いたから心変わりした、なんて単純な話ではないはずだ。

自殺研究の大家であるエドウィン・S・シュナイドマンは、自殺願望を抱く人の心には「死にたい」と「生きたい」が同時に存在していると説いた。削除していたものも含め、Yさんの一連の投稿にはその両方の強い言葉が刻まれていたと感じる。

Yさんの闘いは現在も続いているし、SNSでの交流も続いている。

「死にたい」という気持ちは今も湧き上がってきますか?――Yさんに尋ねるとこう返してくれた。

「昨年(2024年)は死ぬことに依存してました。だから死ぬ以外に選択肢がない状況に自らもっていってました。今は、生きれるなら生きたいです。昨年自分でつくった死ぬしかない状況がまだ残ってるので、生きれるなら。ですね」

2025年2月14日の投稿

Yさんは自暴自棄になるまでガソリンスタンドで働いていた。がむしゃらに働いて、休みの日は一人でキャンプに出かけて、地元の大自然を全身に浴びるのを趣味としていた。

心と身体、生活状況がある程度回復したら、再びキャンプに出かけるかもしれない。けれど、目指す職場のビジョンは先に引用したように「准看だったり、児童養護施設に携わった仕事」に変わっている。

困っている人を直接助ける仕事がしたい。その志向はおそらく、かつての入院生活で知り合ったふた回り上の恩人との交流が基底にあるのだろう。

2023年1月に亡くなったその恩人との思い出も、Yさんはしばしば明かしている。

<ずっと考えてたけどやっぱこのままじゃだめだ
 亡き大切な方はよく「かっこよく生きろよ」っと僕に言った
 残された家族と胸を張って会うために、子どもたちからかっこいいおっちゃんと思ってもらえるように変わらなければ。頑張らなければ>
(2025年1月14日投稿 ※削除済み)

恩人の存在はきっと「生きたい」の支えとなっていきそうだ。趣味も支えになるだろう。けれど、心の支えは他に増えても困らないはずだ。XがYさんにとって、心の揺らぎを安心して置きっぱなしにできる場にならなかったのは少し悲しいことだと思った。

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古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。
X:https://x.com/yskfuruta
 

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