前回2004年の利上げのときは、FOMCがあるたびに利上げした。だが今回は、12月に利上げを開始できても、16年の8回のFOMCのうち、利上げの実施は4回かそれ以下にとどまりそうだ。16年の今ごろもまだ低金利環境は続いているだろう。
しかも金利引き上げは、今回の正常化作業の半分にすぎない。MBS(住宅ローン担保証券)と長期国債の購入で膨らんだ資産を、縮小させていくことが、残り半分の課題として残っている。保有資産の縮小に着手するのは、利上げを数回行って、金融市場の理解がある程度進んでからになる。早くて16年の春。遅ければ16年後半か。
今は、MBSなどの償還時期が来ると、同額を市場から購入して、保有額を維持している。縮小段階に入ったら、こうした再投資をしないという形で、保有額を減らしていくことになろう。ゆっくりと資産を縮小していくと、正常化は23年ごろで、途中で景気後退が来ると、20年代の後半にずれ込む。
つまり、利上げによって金融政策正常化の扉を開けても、そこから先にはまだ長い廊下がある。その後で資産縮小を始めても、廊下はまたさらに長い。利上げを始めたぐらいでは、金融緩和政策の出口は遠すぎて見えない、というのが今の実状なのだ。
利上げの開始が大幅にずれ込むおそれも
そういう意味で徐々にであっても正常化を進めたいFRBだが、メインシナリオではないものの利上げ開始が大幅にずれ込むおそれもある。
リスクシナリオの一つ目は中国を中心とする新興諸国の経済が崩れることだ。中国は経済の減速が避けられないが、それでも経常黒字国。政策金利の下げ余地もあり、財政政策を発動できる体力もある。中国経済がハードランディングに陥る可能性は低い。ただ、目先の調整がどこまで深くなるかは、不確実だ。その過程では、中国ほど体力のない新興国に、注意が必要。コモディティ価格の低下で、ロシアなど資源輸出に頼っていた新興国にショックが起きる可能性がある。
新興国の景気が急悪化すれば、米国企業の業績も悪化する。それによって、賃金の上昇ペースが遅くなれば、インフレ率の上昇が抑えられる。米国の株価も下落するだろうから消費マインドにも影響し、物価はますます上がらなくなる。こうした状況になると利上げは難しい。
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