全員「元会社員」ケーキ職人の平均年齢は75歳 1978年創業の味を守り続ける中目黒「ヨハン」
とはいえ、日本には友人も少なく、時間を持て余すように。それを見かねた博子さんから「ちょっと見てきて」と言われて、ヨハンに顔を出すようになった。高校時代、たまに遊びに行った程度で、アメリカに住み始めてからはずっと他人事のように感じていたヨハンが、少しずつ身近な存在になっていった。
勝っている時は作戦を変えない
18歳から30年以上アメリカで生活してきた和田さんの思考は、日本より現地の文化に馴染んでいる。ある時、博子さんから従業員について「こういうことがあった」とよくない話を聞いた和田さんは、なんの悪気もなく「クビにすればいいのに」と言った。店に不利益をもたらす人を雇い続けるのは合理的ではないという、アメリカでは誰も疑問を持たないような判断だ。
しかし、博子さんは「日本では、そういうやり方はしない」と和田さんに言って聞かせた。母親の言い分に疑問を抱かないでもなかったが、日本ではそういう考え方をするのかと新鮮でもあった。
いま振り返れば、日本に長期滞在するようになった和田さんをヨハンに導き、日本の文化に沿った考え方を説いた博子さんは、やがて訪れるバトンタッチの時を見据えていたのかもしれない。2023年1月、博子さんが亡くなると、和田さんはアメリカでの仕事を畳んで、ヨハンの経営を受け継いだ。
「長く働いているお店の従業員たちがいるのに、ここを引き払って、はい、さようならなんて、ちょっとできないですよ。だから、僕にできるところまでやりましょうと」
高齢者を雇用し続けるメリットは? 元気な若者を雇ったほうがいいのでは? と感じる読者もいるかもしれないが、和田さんは「やり方を変えない」という道を選んだ。それは、和田さんにとって合理的な選択だ。
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