「こけしを集めるのにハマっています。完全な手作りで、ルーツによってバリエーションがあるところに惹かれるんです。例えばこの目の周りが赤いこけしは猪苗代町の近くで作られているものです。通称『たこ坊主』っていうのですが、変わっているんですよ」
こけしのコレクションが何十体も飾られている様(さま)は壮観だ。こけしは郷土玩具として日本人になじみすぎて、その特徴を見過ごしてしまいがちだが、ひとつひとつ眺めると個性的で味わい深い。
「こけしの作り手は、ほとんどがご老人ばかり。彼らはインスタグラムなどのSNSも、もちろんやっていないですから、まず電話番号を調べて電話をかけるところから始めるんです。電話で『工房に伺ってもいいですか?』と交渉して、直接訪ねて、欲しいものがあればお願いをする。完全にアナログなやり取りです」
大野さんの、こけしを求める情熱は相当なものだ。それは、こけしとの印象的な出合いに端を発している。
「冬の山形で初めてこけしを買ったときのことです。私は肘折(ひじおり)という小さな街の秘境温泉を訪れていました。そのとき温泉以外になにか面白いものはないかと思って、ガイドブックで調べて訪問したのが、こけし工人(伝統こけしを製作する職人)のご自宅兼お店でした。
ただ大雪のせいなのか、お店は閉まっていて。一応電話をしたところ、年配の男性にお店を開けていただいただけではなく、奥様にクッキーとコーヒーを振る舞っていただいた次第です。そこでこけしについて、いろいろお話を聞かせていただいて、興味をもったことが収集のきっかけになりました。
こけしを集めていると、そういう予想外の出来事があって楽しいんです。何かを追い求めて誰かにたどり着く、そこでコミュニケーションが生まれてつながりを得る。そのプロセスに、価値を感じているのだと思います」
こけしは東北地方の郷土玩具。深い雪に閉ざされた毎日のなかで育まれた形や模様。愛嬌のある顔立ちには、温もりがある。唯一無二のこけしを求め、雪深い東北の、工人宅を訪ねる大野さん。「もしもこれらが東京のセレクトショップに売っていたら、きっと僕はこんなに惹かれないんですよね」。こけしを見つめながら、しみじみと語った。
挑戦が形づくる紆余曲折の人生
独自に何かを追い求めて、それを手に入れるというプロセスは、大野さんの人生の歩みにもつながるそうだ。
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