『孤独のグルメ』の原点ともいえる作品があった!
ほかの寄稿者たちも、2~4ページ(カレー沢薫は再録で8p)のショート作品ながら、それぞれに趣向を凝らした自分なりの『孤独のグルメ』を見せてくれる。原作者・久住昌之の実弟である久住卓也は、兄弟ならではの視点で『孤独のグルメ』の舞台裏を綴る。そしてもう一人、独自の世界を展開するのが和泉晴紀だ。
昔からのファンならご存じのとおり、もともと和泉晴紀と久住昌之は「泉昌之」名義でデビューしたコンビ作家だった。基本的に久住が原作、和泉が作画を担当する。そのデビュー作『夜行』(1981年発表)は、夜行列車で旅する男が駅弁をいかに攻略するか、というだけの話をハードボイルドなタッチで描いた怪作である。
物語冒頭、いきなりページいっぱいにドーンと描かれる幕の内弁当。雑誌サイズで見ればほぼ実物大で、インパクトは絶大だ。その弁当を前にして、カツ、サバの塩焼き、たまご焼、キンピラゴボウ、カマボコ、昆布、漬け物といったオカズをどんな順番で食べるか、オカズとごはんの配分はどうするか、主人公は熟考する。
「我々はすでにめしとの戦いに於いて………たまご焼とカマボコを失っている。キンピラも残り少い」といったモノローグは、まさに戦況を語るかのよう。誰もが多少は考える食事の段取りではあるが、まあ、どうでもいいといえばどうでもいい話である。それを極限まで突き詰めたバカバカしさが、共感と忍び笑いを誘う。
それはまさしく『孤独のグルメ』の原点と言えるだろう。谷口ジローが料理を真上からの構図で描いたのも、『夜行』が頭にあったのではないか。いや、久住昌之による原作の説明スケッチや資料写真がそういう構図だった可能性も高いが、いずれにせよ『夜行』があってこその『孤独のグルメ』なのである。
今回の和泉晴紀のトリビュートマンガ『孤人(ひとり)のグルメ』は、その『夜行』と同じトレンチコートに中折れ帽の男が主人公。目当てのラーメン店が大行列で、そのへんの適当なそば屋に入った男が味わう何とも言えない微妙な感覚を描く。直接的に『孤独のグルメ』のスタイルやキャラを用いてはいないが、スピリットの部分では最も『孤独のグルメ』の世界観に通じているような気がする。
『トリビュートブック 100%孤独のグルメ! ~それにしても、腹が減った…~』には、戌井昭人、宇垣美里、大根仁らのエッセイ、久住昌之ロングインタビュー、井之頭五郎名言集、久住昌之×吉田類の対談なども収録。谷口氏亡きいま、オリジナル版『孤独のグルメ』の新作を読むことは叶わないが、これからもさまざまな形で作品は生き続けていくに違いない。
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