井筒:たしかケプラーは、幼少期に天然痘で目が悪くなり、星がまともに見えないなかでひたすらデータを解析して、天体運行の「ケプラーの法則」を見つけたんですよね。たまたま手元にデータがない時期に、光学の勉強をして、近視の本を書いたと聞いたことがあります。すごい人だなと。
窪田:データを見ながら宇宙の研究をしていたのは、井筒さんと同じですね。井筒さんもそうだったように、研究者は室内で近見作業をすることが多い職業ですから、近視の割合が高くなる。ハイリスク・グループといえます。研究者と近視は、切っても切れない関係なのです。
井筒:私が研究をしていたときも、周りはメガネをかけている人が多かったです。
窪田:ケプラーによって、近見作業が目に悪影響を及ぼすことが提唱されていたにもかかわらず、21世紀に入るまでそれを証明する十分なエビデンスが積み上げられてこなかった。それは、がんや感染症と比べて、近視の優先順位が低かったからです。
近視の研究が軽視されてきたことで、近年、子どもたちの近視が著しく増加している。近視になると、将来的に緑内障や白内障、網膜剥離といった失明につながる疾患になる可能性が高まるため、危険な病気だと知ってほしいです。
「度数が弱いメガネをかけたほうがいい」は間違い
井筒:窪田先生の本には、子ども時代に近見作業の時間が長くなると、だんだん眼軸(目の奥行きの長さ)が伸びていくと書かれていました。そうすると、遠くのものを見たときに網膜の手前でピントが合うようになるので、メガネをかけてピントを調整するのだと。
でも、そもそも手前でピントが合っている状態をずっと維持しておけば、それ以上、近視が進むのを抑えられるのでは、と思ったのですが。
窪田:つまり、弱い度数のメガネをかけておいたほうが目が悪くならないのでは、という疑問ですよね。実は眼科医の間でも長らくそう考えられていて、「度数を少し弱める“弱矯正”の方がよい」とされていたことがあります。