「かわいい」モードが復活、女性アイドル界のいま あいみょんも夢中!FRUITS ZIPPERの時代性と戦略

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一見、それはアイドルを戯画化してネタにしているともとれる。だがそうではなく、自らにとってのアイドルの理想を具現化したものだった。

そんなももちのポリシーを表したフレーズのひとつとして、「生まれ持った良さ」というものがある。言葉づかいや仕草をキャラではないかとツッコまれると、キャラではなく「生まれ持った良さ」だと返す。

演じているわけではない、ということである。松田聖子に投げかけられた「ぶりっ子」という呼びかたには演じていることを揶揄するニュアンスがあったが、それをももちは否定していた。そこには、嗣永桃子がアイドルのプロとして抱く固い信念がうかがえる。

世界を意識した「NEW KAWAII」へ

そして令和の現在。「かわいい」はなぜ復活しているのか?

FRUITS ZIPPERは、アソビシステムという芸能事務所が展開する「KAWAII LAB.」(カワイイラボ)というプロジェクトから生まれたアイドルである。

そこにはCUTIE STREET(デビューシングルの曲名は「かわいいだけじゃだめですか?」)など、ほかにも「かわいい」を掲げる女性アイドルグループがいる。

このプロジェクトの総合プロデューサーを務めるのが木村ミサ。彼女もまたアイドル活動の経験がある。

「KAWAII LAB.」は、アイドル文化を世界に発信することを目標に立ち上げられた。

世界でのK-POPの勢いを感じていたアソビシステム代表の中川悠介は、「それに真っ向から対抗するのではなく、ジャパニーズアイドルを作るのがいいんじゃないかな」と考えるに至る(『Pop'n'Roll』2023年8月1日付け記事)。

その意を受けた木村ミサは、大学で「かわいい」について研究していたということもあり、「NEW KAWAII」というコンセプトを思いつく(同2022年2月23日付け記事)。

ここにひとつ、現在の「かわいい」アイドルたちが従来と違う点があるだろう。令和の「かわいい」は、世界を意識した戦略的なものになっている。

過去のアイドルにおける「かわいい」は、国内限定という側面があった。従順で守ってあげたくなるような感じ。そんなニュアンスがつきまとう「かわいい」は、日本社会というひとつの閉じられた内輪のなかでこそ伝わる魅力という部分が強かった。

それに対し、「KAWAII LAB.」の話からもわかるように、令和アイドルの「かわいい」は、日本のアイドルが長く培ってきたものをベースに世界に出ていくためのもの、ひとつのアイデンティティの主張になっている。それは、他人に依存する媚びや甘えとはひと味違うポジティブな自己表現としての新しい「かわいい」、すなわち「NEW KAWAII」だ。

「NEW KAWAII」は、FRUITS ZIPPERの最新CDシングル名でもある。「アップデート」がキーワード。「わたしこのままでもいいじゃん」という歌詞などからは、「かわいい」なかにも「私は私」という強い意思がうかがえる。

そこに松田聖子や“ももち”から受け継がれたアイドル魂がいまも息づいていると言ったら言い過ぎだろうか。いずれにしても、世界を視野に入れたなかで“日本のアイドル”の可能性を見出そうとする「かわいい」アイドルたちの今後に注目だ。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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