流行語が「死語」にならず世代を超えて定着する条件 「真逆」「夜ご飯」もかつては一般的ではなかった

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『言語学者も知らない謎な日本語: 研究者の父、大学生の娘に若者言葉を学ぶ』書影
『言語学者も知らない謎な日本語: 研究者の父、大学生の娘に若者言葉を学ぶ』(教育評論社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

では、どのような語が言語変化を起こし、世代を越えて定着するのでしょうか。私が言語変化を起こした語としてまず思い浮かぶものは「真逆」です。私自身の学生時代に「真逆」という言葉を聞いた記憶はなく、「正反対」という言葉が使われていました。

ところが、世紀が変わるころ、若い世代が「真逆」という言葉を使っていることに気づき、当時、違和感を抱いたことを憶えています。そんな言葉が定着するわけがないと考えていた私の予想とは裏腹に「真逆」という言葉は世代を越えた広がりを見せ、今では日常語になりました。

「真反対」という言葉も一時期使われていたように思いますが、どこかの段階で淘汰され、「真逆」に一本化されていきました。「真逆」は語形から考えて、あまり目立たず、若者言葉っぽくも新語っぽくもない言葉ですが、だからこそ、言語変化が水面下で進行し、自然に定着したものと思われます。

実はたくさん「気づかない新語」

語彙研究者の橋本行洋氏は、こうした「気づかない新語」研究の先駆者で、「夜ご飯」「食感」「目線」など、数々の「気づかない新語」を掘り起こし、分析しています。「夜ご飯」という語を例に取ると、たしかに以前は「夜ご飯」は存在せず、「晩ご飯」という言葉が使われていました。

「朝―昼―晩」という組み合わせのなかで、「朝ご飯」「昼ご飯」「晩ご飯」だったわけです。しかし、その組み合わせが「朝―昼―夜」に変わったことで、「晩ご飯」もまたひっそりと「夜ご飯」に変わっていったのでしょう。現在では1日3食が一般的ですが、かつては1日2食の人も多く、「朝餉(あさ げ)」「夕餉(ゆう げ)」と呼ばれていました。

それが「朝ご飯」「夕ご飯」に変わったという歴史も考えられそうです。「夕ご飯」が「晩ご飯」を経て「夜ご飯」になった背景には、日本語の変化だけでなく、日本社会の変化もあると考えられます。

[参考文献]
橋本行洋(2007)「語彙史・語構成史上の『よるごはん』」『日本語の研究』第3巻4号、pp.33-48 
石黒 圭 国立国語研究所教授、総合研究大学院大学教授、一橋大学大学院言語社会研究科連携教授

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いしぐろ けい / Kei Ishiguro

1969年大阪府生まれ。神奈川県出身。一橋大学社会学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は文章論。1999年に一橋大学留学生センター専任講師、2004年に同助(准)教授、2013年に一橋大学国際教育センター・言語社会研究科教授を経て現職。
 主な著書に『コミュ力は「副詞」で決まる』『文章は接続詞で決まる』『語彙力を鍛える』(以上、光文社新書)、『この1冊できちんと書ける! 論文・レポートの基本』(日本実業出版社)、『よくわかる文章表現の技術Ⅰ~Ⅴ』(明治書院)、『文系研究者になる』(研究社)、『ていねいな文章大全―日本語の「伝わらない」を解決する108のヒント』(ダイヤモンド社)、などがある。

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石黒 愛
いしぐろ あい / Ai Ishiguro

首都圏にある某大学文系学部に通う大学2年生。石黒家の三姉妹の長女。

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