流行語が「死語」にならず世代を超えて定着する条件 「真逆」「夜ご飯」もかつては一般的ではなかった
では、どのような語が言語変化を起こし、世代を越えて定着するのでしょうか。私が言語変化を起こした語としてまず思い浮かぶものは「真逆」です。私自身の学生時代に「真逆」という言葉を聞いた記憶はなく、「正反対」という言葉が使われていました。
ところが、世紀が変わるころ、若い世代が「真逆」という言葉を使っていることに気づき、当時、違和感を抱いたことを憶えています。そんな言葉が定着するわけがないと考えていた私の予想とは裏腹に「真逆」という言葉は世代を越えた広がりを見せ、今では日常語になりました。
「真反対」という言葉も一時期使われていたように思いますが、どこかの段階で淘汰され、「真逆」に一本化されていきました。「真逆」は語形から考えて、あまり目立たず、若者言葉っぽくも新語っぽくもない言葉ですが、だからこそ、言語変化が水面下で進行し、自然に定着したものと思われます。
実はたくさん「気づかない新語」
語彙研究者の橋本行洋氏は、こうした「気づかない新語」研究の先駆者で、「夜ご飯」「食感」「目線」など、数々の「気づかない新語」を掘り起こし、分析しています。「夜ご飯」という語を例に取ると、たしかに以前は「夜ご飯」は存在せず、「晩ご飯」という言葉が使われていました。
「朝―昼―晩」という組み合わせのなかで、「朝ご飯」「昼ご飯」「晩ご飯」だったわけです。しかし、その組み合わせが「朝―昼―夜」に変わったことで、「晩ご飯」もまたひっそりと「夜ご飯」に変わっていったのでしょう。現在では1日3食が一般的ですが、かつては1日2食の人も多く、「朝餉(あさ げ)」「夕餉(ゆう げ)」と呼ばれていました。
それが「朝ご飯」「夕ご飯」に変わったという歴史も考えられそうです。「夕ご飯」が「晩ご飯」を経て「夜ご飯」になった背景には、日本語の変化だけでなく、日本社会の変化もあると考えられます。
橋本行洋(2007)「語彙史・語構成史上の『よるごはん』」『日本語の研究』第3巻4号、pp.33-48
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