国立大病院「235億円の赤字」が意味する"危うさ" 診療が若手の研究時間奪い「論文の質の低下」も
2023年5月、コロナが感染症法上の5類になり、世の中はコロナ前の社会生活に戻ったが、病院経営はコロナ前には戻らず。
入院や外来の患者数が回復しないだけでなく、今年4月から始まった「医師の働き方改革」による人件費増などのほか、看護師などの医療職不足に拍車がかかる。人材紹介会社に支払う紹介手数料・委託料も経営を圧迫する要因となっている。
国立大病院の経常赤字は235億円
経営状態について、まずは大学病院から見ていきたい。
国立大学の病院長が集まる国立大学病院長会議(会長:大鳥精司千葉大学病院長)は今年10月、2024年度の国立大学病院全体の経常赤字が、昨年度を大きく上回る235億円になる見込みだと発表した。
同会議は、7月に2023年度の経常赤字額が速報値で60億円となりそうだと発表している。2024年度には、経常収支はさらに悪化する見通しだ。42ある国⽴⼤学病院のうち経常⾚字となるのは、昨年度の22から32に拡⼤するとしている。
経常収支悪化の主な要因は、
▽働き方改革、処遇改善の影響による人件費増(前年比343億円増)
▽医療の高度化に伴い高額な医薬品、材料使用増による医療費の増加(同121億円増)
▽物価高騰などによる業務委託費の増加や、老朽化が進む施設・設備への投資(同64億円増)
▽エネルギー価格高騰の影響から光熱水費の増加(同33億円増)
――などだ。
支出で最も多いのは「働き方改革、処遇改善の影響による人件費増」。
4月から始まった「医師の働き方改革」などの処遇改善と、8月の人事院勧告が平均年収にして3.4%の引き上げを求めていることなどを考慮して、343億円の支出増を見込んだ。
それに次いで支出で多いのが医療費で、121億円増えると見込んでいる。
医療費とは医薬品費に診療材料費などを加えたものだ。病院収益に対する医療費の割合は一本調子で高まり、2023年度までの11年間で医療費率は8.1ポイント上昇している(※外部配信先では図を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
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