北京世界陸上「日本惨敗」の責任問題を考える このままでは2020年東京五輪も危うい

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かたや日本陸上界のチームジャパンはどうか。強化スタッフは大学の教授や監督、実業団のコーチなどを兼任。多少の手当てが付くとはいえ、生活に必要なおカネは所属する大学や企業から主に「給料」という形で賄われることになる。PTAの役員に近い形と言えばイメージしやすいだろうか。

責任を負うだけの報酬が支払われていない状況で、責任だけを押し付けるのはちょっと気の毒な気がする。そのような状況だからなのか、日本代表の選出は、強化委員に名前を連ねるチームの選手が優先されているという指摘もたびたび起こっているのも事実だ。いずれにせよ、いまの強化スタイルでは日本陸上界に明るい未来はないだろう。

片手間、手弁当では限界がある

あえてネガティブな言い方をするけれど、片手間でチームジャパンを強化するのは無理だと思う。実は今回、低迷した日本勢とは対照的に、地元・中国勢は大躍進を遂げている。蘇炳添が男子100m準決勝で9秒99をマークして、アジア勢として初めてファイナルに進出。日本のお家芸である男子4×100mリレーではなんと銀メダルを獲得したのだ(日本は予選落ち)。メダル獲得数はケニア、ジャマイカ、アメリカに次ぐ4番目の9個をゲット。サッカーW杯ならベスト4進出相当だ。

中国勢は2008年北京五輪で惨敗している。その反省を生かして、地元で開催される世界陸上に向けて強化プロジェクトを推し進めてきた。IMGアカデミーの米国人コーチをリレーチームと契約するなど、プロフェッショナルな外国人コーチを招聘。今回の歓喜につなげている。

日本人だけの仲良しクラブで、しかもスタッフが手弁当でやっているようなチームジャパンと専属のプロコーチに指導を委ねた中国と大きな差がつくのは当然だ。アマチュアのコーチでは、世界と勝負できない時代になっている。サッカー日本代表のように専任のスタッフを置いて、日本代表候補へのアドバイスはもちろん、世界大会で結果を残すための戦略を立てるべきだ。何度も書くが、東京五輪まであと5年を切っている。「思った以上に世界のレベルが高かった」という言い訳は聞きたくない。

ちょっと気になったので、日本サッカー協会と日本陸連の懐事情を調べてみた。日本サッカー協会は2012年3月期で、収入合計が約162億円(支出合計は147億円)、現預金残高は25億円ある。一方の日本陸連は、2015年3月期で収入合計19億円(支出合計が18億円)。現預金残高は6億円だった。

ハリル監督のような高額ギャラのコーチを雇うことはできないが(そもそも陸上界にそれほど稼ぐコーチはいない)、現状でもがんばれば年間数千万円の予算で強化委員長など、数人の専任スタッフと契約することは可能な気がする。

書いていて思い出したのが、陸上日本選手権の“ガラガラ感”だ。毎年、取材をしているが、スタジアムが満員になっているのを見たことがない。近年は3日間の総数で4万人ほどの観客を集めるだけで精一杯だ。チケット収入を考えても、日本陸連は観客を呼び込む努力をもっとするべきだろう。

本コラムの担当編集者からは、「いい経営者を雇うのが近道では?」という意見も出た。世界で戦うためには、日本サッカー協会のようにビジネス的にも成功させて、潤沢な予算を強化費にまわすというやり方が正攻法なのかもしれない。

新国立競技場に公式エンブレム。それから北京世界陸上の惨敗。表面的な議論ではなく、問題の原因はどこにあったのか。まずはその部分をしっかりとブラッシュアップすべきだろう。そして、抜根的な改革が必要だ。そのために、メディアだけでなく、陸上ファンには大きな声を上げてほしいし、できれば陸上日本選手権にも来ていただきたい。

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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