京都の中堅化学メーカー、三洋化成工業が売上高の2割を占める主力事業からの撤退を決断した。その背景や新規事業の手応え、PBR向上策、さらには業界再編の展望について樋口章憲社長に聞いた。
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ファーストペンギンであることが非常に重要
――「ここが他社とは違う」という三洋化成の強みを教えてください。
界面制御技術を生かし、ニッチ(隙間)領域でシェアが高く収益性も高い製品を手がけていることだ。
界面とは「空気と物」など、異なる物質の境界面のこと。その界面の性質、例えばポリ袋の表面の性質を変えて価値を高めるのが界面制御技術だ。自動車用エンジン油の粘度指数向上剤や、航空機などに使われる炭素繊維の集束剤など、身の回りのさまざまなところで当社の製品が使われている。
――ニッチ領域を狙う企業は多いです。その中で高いシェアを築くポイントは何でしょうか。
誰かがすでにやっていることは誰でもできる。(新しい分野に率先して挑戦する)ファーストペンギンであることが非常に重要だ。多様な匂いを可視化する匂いセンサーは他社も取り組んでいるが、実装できたところはほとんどない。紙おむつに使われる高吸水性樹脂(SAP)も世界で初めて商業生産した。
また、自動車や航空機など向けの製品は、いちど顧客が採用すると安全性の観点から簡単には切り替えない。われわれはそうした参入障壁の高いカテゴリーに入り込むことが多い。
――新規事業として開発に注力する人工タンパク質の「シルクエラスチン」は、2031年3月期の営業利益60億円を目標にしています(前期の会社全体の営業利益は49億円)。
日本初の「遺伝子組み換え技術を用いた医療機器」として承認を目指している。主な用途は、糖尿病などによる創傷(皮膚の損傷)の治癒とひざ半月板の再生で、医薬品とは異なり副作用がほとんどない。いずれも治験で高い効果が確認されており、開発は非常に順調だ。
――一方、3月に撤退を発表したSAPは、前2024年3月期の売上高の2割を占める主力事業ですが、中国メーカーとの低価格競争により収益性が悪化していました。なぜ高付加価値化できなかったのでしょうか。
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