江戸時代の老親介護「担い手は男性メイン」の理由 核家族化が進んだ江戸時代「庶民の介護」事情
「さこ」の義父は盲目、中風になり、義母は原文でいうところの「物のけのやうになやミ、老いほれて物くるハしくなり、さこを怒りのゝしり」などの症状が出ていることから、精神面の病あるいは認知症に該当しそうです。認知症は記憶障害や見当識障害(時間や場所が分からなくなる)といった中核症状だけでなく、暴言や妄想などを含む行動・心理症状(BPSD)が現れるケースも多いので、それが義母から「さこ」に向けられた可能性が考えられます。
最後の箇所で、義母は息子、夫が亡くなる不幸が続いたため悲しみ、自然と慈しみの心も生じたとありますが、一方で認知症がさらに進行して末期状態となり、極度の意欲低下や寝たきりに近い状態になったのでは、とも推測できます。「さこ」は義父母が要介護状態となりながら懸命に世話していたわけで、現代風にいうと「多重介護」に直面していたといえます。
なお「さこ」や先ほどの「小ゆり」、「くに」の場合は女性・娘が介護の担い手ですが、先に取り上げた武士の介護事例のように、江戸期の介護の担い手は比較的男性・息子が多かったようです。
老親の介護は誰が担ったか?
『仙台孝義録』を対象とした研究では、要介護となった老親の介護を親族の誰が担ったのかについて割合が算出されています。老親の介護で表彰されている事例は373件あり、そのうち介護者として最多だったのは「男性(実子・養子・継子)」で、全体の52.5%(196件)、次に多かったのが「女性(娘・養女・嫁)」の24.1%(90件)、以下「息子(娘)夫婦」の17.7%(66件)、「子供」の3.5%(13件)と続きます。「息子夫婦+孫夫婦」や「息子夫婦+孫」など1~2件のみ見られるケースも全体の2.2%(8件)ほど見られました。
老親介護の担い手として「男性(実子・養子・継子)」が半数以上に上り、「女性(娘・養女・嫁)」の割合を大きく上回っています。特に家が貧しくて息子が未婚の場合、息子が看る場合も多かったようで、「男性(実子・養子・継子)」の介護事例のうち13件は、親の介護のために40過ぎまで独身を強いられたり、孝行のためにあえて妻帯しなかったケースでした。
ちなみに内閣府『令和3年版高齢社会白書』によると、現代人が同居の高齢者を介護する場合、息子や養子など男性の割合は35%、娘や息子の配偶者など女性の割合は65%です。『仙台孝義録』の調査結果と現代では、介護の担い手となる性別の割合が大きく違っています。現代では、親に対する愛情の大きい子供が自発的に老親介護を担う事例も多いようですが、当時は家規範・男性優位の価値観が特に強く持たれていた時代です。
「孝行」の担い手となることも含め、何事も矢面に立って責任を持つのが男子とされており、老親介護においても同様だったとも考えられます。
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