多少でも気にかけようものなら、すぐに「いつ継いでくれんねん」「いつ(家業へ)帰ってきてくれんねん」と言われてしまうから。それが嫌で嫌でたまらなかった。
たまに実家に帰ると、親父は「うちの会社はすごいんやぞ」「うちの社員はすごいぞ」を繰り返します。僕に少しでも興味を持ってもらいたかったのでしょうか。そんな話を聞かされれば聞かされるほど、家業への嫌悪感が募っていきました。
起業したベンチャーの経営はものすごく大変でした。利益の創出はもちろん、優秀な人材を確保することの難しさや、その人たちのマネジメントの課題に常にぶつかっていました。
ですから、親父の言う「うちの社員はすごいんやぞ」という言葉が、僕にはものすごく空々しく聞こえたんですね。どう考えてもただの虚言のようにしか思えませんでした。
若いベンチャー企業である自分たちは、マーケティングをしっかり学び、経営についても最新の経営理論を参考にして、ある種、アカデミックに理論的に正しい経営のあり方を模索している。
それに引き換え、家業は、どう見ても職人の世界だし、「ええもん作ったら売れんねん!」的な時代錯誤の会社だというような偏見を抱いていたんです。
家業を継ぐことになったきっかけ
親父が「うちの社員はすごいんやぞ」と繰り返し言っていたあのころから、いったいどれほどの月日が経ったでしょうか。
僕は今、僕自身が忌み嫌った家業をしています。
きっかけは2度にわたる「事業承継の失敗」です。
一時、親父は僕が継ぐのを諦めて、親族外の事業承継を試みました。しかし、うまくいきませんでした。あるベテラン社員は当時を「暗黒時代」と呼びます。
失敗を厳しく叱責し、何かあれば責任を取れと迫る。そんな経営スタイルに社員は疲弊して、「このままでは全員辞めます」と親父に直談判をしたそうです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら