掃除のプロであるシンジさんでも、ほとんどの現場で時間内に作業を終わらせることは難しいという。「とにかく報酬が安い」と憤りつつ、いくつかのケースを紹介してくれた。
例えば「駐車場点検・ごみ拾い・草むしり 14分 550円」。約30台分の敷地内には思った以上に瓶や缶、たばこの吸い殻、雑草などがあり、それらの回収だけで30分以上かかった。また、「マンション掃き拭き清掃 52分 1430円」では、街路樹の落ち葉が敷地内に大量に舞い込んでいたうえ、雑草がエアコンの室外機を覆い隠す勢いで茂っていた。落ち葉を集め、共有部分の掃除を終えた時点で1時間半が経とうとしていた。
シンジさんは「結局、草は取り切れませんでした。エリクラでなければ、見積もりをしたうえで最低でも5000円は請求する現場です」とため息をつく。
また、エリクラへの報告書に添付するために、作業前後の現場や作業中の手元の写真を撮らなければならない。さらに「使用した雑巾の汚れた部分」「中が見えるよう開けた状態のごみ袋」なども撮るよう指示されるので、たびたび掃除の手を止めなければならない。
シンジさんは「エリクラを使い始めたころはここまで細かい要求はありませんでした」と振り返る。依頼主から言われるままにあれこれ追加していった結果、働き手の負担だけが一方的に増えたのではないかと推測する。
エリクラ側から「掃除をしていない箇所がある」として報告書を差し戻されたこともあるという。カラスのフンで頻繁に汚れる場所がある現場だったが、そこもきれいに拭き上げ、写真も添付した。このため「箇所を具体的に教えてほしい」と返信したところ、なぜか報告書は受け取り完了となった。しかし、その後担当者から「報告時の言葉遣いに注意するように」とのメールが届き、「改善が見られない場合はアカウントを停止する場合がある」という旨を通告された。シンジさんは「乱暴な言葉を使った覚えはないのに」と反論する。
「ごみを持ち帰るように」と指示された
ここで冒頭の「不法投棄」に話を戻そう。シンジさんの足元にあったごみ袋はマンションを清掃したときに出たものだ。このごみの処理方法について、シンジさんはエリクラの仕組みには多くの問題があると指摘する。
エリクラのアプリ内にある依頼主からの注意事項では、掃除で出たごみは働き手自身が持ち帰り、その後は居住地の自治体のルールに従って処分するよう依頼されることが多い。
これに対するシンジさんの懸念はこうだ。
エリクラの仕事で出たごみは産業廃棄物、もしくは事業系一般廃棄物に当たるので、その処理には費用がかかるのではないか。また、廃棄物の持ち運びは収集運搬の許可を持つ者しかできない。つまり、ごみの排出者でもない自分が無許可で持ち帰って自宅前のごみ集積所に捨てることは「不法投棄に当たるのではないか」というのだ。
実際にはごみの種類や排出者についての規定は各自治体が行うことになっている。ただマンションや駐車場の管理事業、あるいは清掃事業によって生じたごみは産業廃棄物、または事業系一般廃棄物とみなされる。私が取材した限りでは、これらのごみは収集運搬業者に有料で処理を委託するなどしなければならず、家庭ごみとして捨てた場合は不法投棄になるといったルールを設けている自治体が多い。
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