リスクをとる。これは、今回のアメリカのエミー賞受賞作全体のキーワードにもなっていました。リミテッドシリーズ部門で3冠を獲ったNetflixオリジナルシリーズの「私のトナカイちゃん」に主演、脚本を手掛け、エグゼクティブプロデューサーも兼ねたリチャード・ガッドは「リスクを恐れず、勝ち取った」と受賞スピーチで力強く語っていました。ストーカーの話から自己愛を問うテーマに行き着く力作ゆえに納得できるものでした。
多様性もキーワードの時代
安定志向ではない作品が評価される傾向は、アメリカのドラマ界がある意味、新たなフェーズに入ったとも考えることができます。今から約10年前の2013年に配信オリジナルドラマがエミー賞で初めて受賞して以来、年々その数は増えています。今回の受賞作を見渡してもそのほとんどが配信オリジナル作品です。ドラマ「SHOGUN将軍」もしかりです。
その年を代表するドラマが配信発であることがアメリカでは当たり前となった今、これまで以上に評価されるのは新たな切り口のテーマ性であり、多様性の観点も重要ポイントの1つになっているのです。当然、作品力が前提にはなっています。
ドラマ「SHOGUN将軍」と同じくドラマ部門の作品賞にノミネートされたものには、テレビ業界の裏側を描いたApple TV+の「ザ・モーニングショー」やイギリス王室の闇にも迫ったNetflixの「ザ・クラウン」なども並んでいましたが、選ばれたのはドラマ「SHOGUN将軍」。
タブーに挑む内容だけではもう物足りないと言わんばかりに、ドラマ「SHOGUN将軍」が評価されたというわけです。登場人物のイギリス人航海士の視点からみた日本という異文化への理解を偏見なく、リアルに描かれたことが受賞にも繋がっていると思います。
ゲイリー・オールドマンよりも真田、ジェニファー・アニストンやリース・ウィザースプーンよりもサワイが選ばれたのも、時流に乗った作品の力は大きく、ハリウッドが多様性を重視する方針を象徴するものでもあります。
多様性の議論は過渡期にあり、人種への配慮を巡ってさまざまな意見があるのが現状です。ハリウッドの思惑が透けて見えるドラマ「SHOGUN将軍」の受賞に抵抗を感じる人がいるのは仕方がないことです。これらも踏まえて、十分にリスクをとった作品なのです。
それでも実現させ、今回のエミー賞で認められたことで、真田をはじめとする日本人の俳優やクリエイター、技術スタッフにもこれからますます世界のエンターテインメント業界で光が当たっていくことへの期待が高まります。さらに言えば、後に振り返った時にハリウッドにとっても、日本にとっても“節目の作品”になっていることが理想的です。
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