「もう時代後れ」日本の株式会社が見失ったもの 優秀な社員たちの解放が必要な真っ当な理由

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Aさんの会社の創業者もそのひとりで、およそ30年前、30代のころに入塾したそうだ。

「創業者は『利他』という経営理念を掲げています。毎朝、フィロソフィと称する冊子の読み合わせがあります。社員を洗脳して統率するためです」
「利他」とは稲盛経営を代表する言葉の1つとして有名だ。「自分のため」でなく、「人によかれ」と経営すれば、周りの人が協力してくれる、という考え方である。
盛和塾の塾生は、多くが自社の経営理念に「利他」を掲げている。
(39ページより)

さて、この時点で矛盾に気づく方も多いことだろう。

毎朝、冊子の読み合わせをして社員を洗脳し、統率するのであれば、それは「利他」ではなく「利己」そのものである。つまりは「利他」の概念は稲盛氏が説いたとおりに使われていないわけだ。

事実、社内で「利他」という言葉が使われる際、それは顧客や取引先を指すものではなく、「株主様のため」というフレーズが繰り返されるのだという。

優秀な社員ほど定着しない

「株式の50%近くを創業者が握っているので、(株主様のためというのは)結局は自分の利益という構図となる」
そして、厳しい社内ルールが制定されていった。ワイシャツは白、スーツは黒、紺、グレーに限る。創業者を囲んだゴルフ会が頻繁に開かれ、帰ったらすぐにお礼のメールを出さなければならない。
「このメールが遅れると嫌味を言われる。文章の長さも人事評価につながる」
(40ページより)

もはや、なにが「利他」なのかわからない状態で、むしろギャグといったほうが合いそうだ。

しかしこれは一例にすぎず、極めつきはこの会社にある「誉(ほまれ)休暇」である。営業成績がトップになると有給休暇を使う権利が与えられ、机の上に「誉給与」という厚紙でつくった三角錐が置かれるというのだ。

そもそも有給休暇を使う権利は、社員が持っているものではないだろうか。しかしここでは、基本的に病気などの理由以外で有給を申請することは禁止されているのだという。

あきれた「利他」のあり方だが、優秀な社員ほど定着しないようだ。当然のことながら、理不尽なルールに反発して辞めていってしまうためである。

この会社はほんの一例にすぎないが、日本にはこうした企業が決して少なくないのではないだろうか。

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