「もう時代後れ」日本の株式会社が見失ったもの 優秀な社員たちの解放が必要な真っ当な理由

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しかしその一方、そうした旧来的な価値観に縛られることなく、独自の路線を突き進んで成功している企業も出てきている。

本書の後半ではそれが例示されているのだが、そのひとつが千葉県の房総半島を横断する全長39キロメートルのローカル線である「小湊鐵道」だ。

夢物語が現実に

同社については、そのユニークな取り組みがマスコミで取り上げられることも多い。とにかく人の壁がなく、経営トップの石川晋平社長と従業員たちが仲間か同志のようにやり取りをしているのだ。

特徴的なのは、社長である石川氏が比較的若いにもかかわらず、60代、70代の社員が多いこと。それでいて20代、30代の若手も次々と入社してくるのだという。

石川氏の祖父である信太氏が2代前の社長で、その座を引き継いでおられるからだが、結果的にバランスがとれているわけだ。

現在も昔のままの駅舎が使われているのは、画家としても有名だった信太氏が駅を近代的に造り替えることを許さなかったからだ。

それが周囲の田畑や菜の花が咲く風景と溶け合い、多くの人を引きつける魅力となっているそうだ。

山間部の鉄道事業は赤字が続き、補修をすることも難しいが、里山の風景こそが最大の魅力。そこで祖父の意思を引き継いだ石川氏も、コストを抑えなから山間部を残そうと尽力している。

しかも、地元の住民たちがそれを支えているというのだから理想的なあり方である。

各駅で自称「勝手連」を結成し、無人駅を清掃し、草刈りをしているのだ。そればかりか、クリスマスシーズンには勝手に駅舎をイルミネーションでライトアップし、集客を促したりもする。

つまりは会社と勝手連が、暗黙の了解で、適度な緊張を保ちながら小さな鉄道を守っているわけだ。

圧巻は年1回の「里山会議」。各駅の勝手連や小湊の社員、市長や役員、住民が、廃校になった小学校に集まる。会議とは名ばかりの飲み会である。
その「会議」で、10年前、石川社長がこう宣言した。
「電車の壁を取っぱらったトロッコ列車を走らせます。時速20キロでゆっくり走る。酒を飲みながら、地元の自然を楽しんでもらう」
そう言って、自ら描いたトロッコの絵を披露した。まるで遊園地の列車が、山の中を走っているような世界観だった。
それってムリじゃね。私は夢物語だと思って聞いていた。
ところが、2年後、実現してしまう。トロッコに乗った観光客が、地元住民と手を振り合って交流する。
(200〜201ページより)
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