「これがいつまで続くかと思うと気が滅入ってしまって、よく眠れないんです。それにチャットが次から次へと来るので、気が散って、業務も滞りがちになってしまいました」
そう嘆くMさんの言葉に、危機感を抱いたY課長。Mさんの承諾を取り、チャットの中身を見せてもらうと、書き込みの多くはK係長に消されていて、証拠となる文面はほとんど残っていなかった。
「そこで萬屋さんにご相談なんですけど、システム担当にお願いして、削除されたチャット内容を復元できないでしょうか。私としては事実を突き止めて、しっかりと対処したいです」
Y課長の並々ならぬ決意に賛同した私は、すぐさまシステム担当に依頼。復元してもらうと、そこにはおびただしい数の書き込みが記されていた。
社長にも揶揄するようなあだ名を命名
K係長からの悪口チャットの数は、およそ2000通。A4用紙にプリントアウトすると、数百枚にのぼった。
驚いたのはそれだけではない。悪口の対象者一人ひとりに「あだ名」を付けていたのだ。そのあだ名の数々は、不謹慎だが、クリエイティビティに富んでいた。
「しゃくれメガネ」に「付け鼻おじさん」、社長に至っては、古代に絶滅している化石になぞらえて、「アンモナイト(略してアンモ)」と呼んでいた。ちなみに、私に付けられていたあだ名は、「ミスター凡人」。悪口までは書かれていなかったが、複雑な心境になった。
これらのプリントはとてもじゃないが、当事者たちに見せられない。極秘中の極秘扱いにし、秘書課と人事の上層部、そして法務部のごく一部の社員で、K係長の問題行動への対応を協議した。
K係長が引き起こした問題は、主にこの3つ。
加えて、ほかの社員や上層部に関する情報をさらす行為は、秘書の職務に著しく反するとして、厳重注意および、部署異動を決定した。異動先は、東京郊外にある事務センターだ。
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