就活の神さま 常見陽平著
そして5番目の教えを伝える。「“変えられないもの”は受け入れる。そして、胸を張れ!」。これは常見さんが就活を始める学生に、まず伝えたいことだろう。このような重要なことは太文字で強調されており、わかりやすい。
また下段には脚注が設けられ、就活で知っておいたほうが良いことが説明されている。たとえば「内定率の格差」「就活難民」「ブラック企業」「採用活動はウソだらけ」などと多彩なコンテンツだ。本文で説明すると小説のリアルさが損なわれるから、こういう構成にしたのだろう。
この本のいいところは晃彦の成長していく姿に共感できることだ。大人が読めば、20歳そこそこの頃の自分に戻り、緊張した就職面接や入社後の最初の商談を思い出すだろう。学生が読めば、晃彦の姿に自分のこれからの就活をダブらせるだろう。
そしてこの小説はハッピーエンドで終わらない。内定を獲得するシーンはないのだ。読者に「よし、晃彦がようやく内定!」と思わせながら、その期待を上手に裏切っている。内定のシーンまで書いてしまえば、「こうすればうまくいく」という小説仕立てのマニュアルになってしまうが、常見さんは書かない。たぶん就活の成功にマニュアルはないと考えているからだろう。
もちろん小説だからエンディングはある。第10章「内定の、その先へ。」が最終章だ。小説やドラマでもっとも重要なのはラストシーンだ。本書のラストシーンは意表を突かれる展開で、かなり感動的だ。
就活生を主人公にし、就職スケジュールに沿って起こるイベント、主人公の心理、そしてオトナのジミーさんとの会話で構成された小説。「就活の神さま」というタイトル通り、就活をテーマにしているように見える。しかし読み終えて見ると、著者が提示したかった本当のテーマは若者の成長であるように思えてきた。
(HRプロ嘱託研究員:佃光博=東洋経済HRオンライン)
WAVE出版 1,470円
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