カナダが"アジア系と共生する道"を選んだ経緯 アメリカよりも欧州、なかでも北欧に似ている
民族独自の言葉や風習を禁じ、彼らの信じる精霊や神を否定し、英語でキリスト教教育を施す。人間のアイデンティティを根こそぎ奪う仕打ちは、これだけでも人権蹂躙そのものですが、子どもたちは精神的、肉体的、そして性的に虐待されていました。
先住民への人権侵害は、カナダ建国の19世紀末に始まり1980年代(諸説あり)まで続きました。この負の歴史は語られることも少なく、半ば封印された事実でした。
しかし衝撃的なニュースが報じられたのは2021年。ブリティッシュコロンビア州、オリンピック開催地として日本人にも馴染み深いバンクーバーとカルガリーの間にある「カムループス寄宿学校跡地」で、215人もの先住民の遺骨が発見されたのです。
「立派なカナダ人に教育し直す」として連れ去られた先住民の子どもたちは、実は殺害されていた――番幼い遺骨は3歳だったというニュースに、人々は震撼しました。
先住民への残虐行為。これはカナダ全体にとって大きな社会的衝撃でした。その強い反省が、多文化共生を目指す、もう一つの原動力になったと私は捉えています。
現在のカナダは一国主義路線と国際協調路線の軸で言えば、明らかに国際協調路線。アジア系の移民をどんどん受け入れ、相当程度同化しています。ここ数年、私は仕事でカナダ西海岸を訪れていますが、街ゆく人もビジネスで会う人もアジア系の比率は高く、だから特別ということもありません。
「香港生まれのカナダ人です」「両親は中国系ですが、私はカナダ生まれのカナダ人です」などと、民族の文化を継承しつつカナダ人としてのアイデンティティを持っているようです。自由のなくなった香港からの移住者も多数です。長く住んでいる日本人は、「いつカナダの市民権を取得するのか」と聞かれるほど。
アジア系が多いのはカリフォルニアと似たところがありますが、国全体として比較すれば、アメリカよりカナダのほうがより“アジア系の多文化共生”の雰囲気を感じます。
多文化共生が法律化されている今、さまざまな文化を受け入れ、尊重するというリベラルな姿勢が、自由党と保守党、程度の差はありますが、どちらにも表れていると感じます。
地域政党、ケベック党
国全体としてリベラルなカナダ。その素養を政治的に体現しているのが地域政党の存在です。
全国政党は国のために、地域政党はその地域の利益を実現するために政治活動をするということ。カナダには州が10あり(準州は3)、全国区の自由党と保守党の他に地域政党がいくつもあります。
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