仕掛け人が語る「THIS IS IT」大ヒットの裏側 素人が作った「マイケル・ジャクソン」ブーム

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

彼らの言い分は、こうだ。自分たちが商品を卸す先は、レコード店やレンタルショップだ。そこの販売キャパシティは30万枚くらいしかない。女性やお年寄り、子どもたちにも売ることができればいいが、そもそも彼らはレコード店やレンタルショップにはあまり来ない。だから無理である、と。しかし、彼らの観ている世界と私が観ている世界は違った。

私は、前職でアディダスジャパンの営業統括本部長をしていたのだが、そのときのツテを使い、スポーツ用品店にアポを取った。そして数店と交渉し、あっという間に30万枚以上の受注を取り付けた。これですでに、業界のベテランたちが「30万枚が妥当」と言っていた数の2倍の受注数である。彼らの私を見る目がガラッと変わったのは、言うまでもない。

スポーツ用品店でマイケル・ジャクソンが売れた理由

DVD業界のベテランからすれば「なぜスポーツ用品店がマイケル・ジャクソンのDVDを仕入れてくれるのか」「なぜそこで売れるのか」が不思議だっただろう。しかし、業界の常識に縛られずに考えれば、実はそう不思議なことではない。

アディダスジャパンで営業をしていた私は、当時スポーツ用品店が、ある悩みを抱えていることを知っていた。それは、学校の部活帰りの男子だけではなく、女性も顧客として取り込みたい、という悩みだ。私は、こう提案したのだ。

「『THIS IS IT』には、バックダンサーが練習着で踊っている映像がずっと映っています。彼らが着用しているのは、ナイキであり、アディダスです。『THIS IS IT』のブームを作れば、ダンスが好きな女性客にアプローチできますよ。しかも女性はひとりで何枚もウエアを買うし、季節ごとにも買ってくれます」

スポーツ用品店のほかにも私は、従来なら考えられない業界の常識破りとも言える販路を次々と開拓し、同時にプロモーションを仕掛け、日本に一大『THIS IS IT』ブームを巻き起こした。

業界のプロからすれば、よそ者の素人の意見など検討するに値しない、と思いがちである。しかし、素人だから見えること、よそ者だからできることもあるのだ。

業界のプロが「せいぜい35万枚」といった『THIS IS IT』は、200万枚を超える大ヒット商品となり、現在もさまざまなパッケージとなって売れ続けている。

伊藤 嘉明 ハイアール アジア 社長兼CEO

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いとう よしあき / Ito Yoshiaki

1969年、タイ・バンコク生まれ。米国オレゴン州コンコーディア大学を卒業後、タイへ帰国。サーブ自動車の総輸入元で高級車の企画・販売・営業に携わった後、サンダーバード国際経営大学院ビジネススクールにてMBAを取得。日本アーンスト・アンド・ヤング・コンサルティングを経て、2000年に日本コカ・コーラ入社。広報渉外本部、初代環境経営部長に就任。2004年デルに入社、公共営業本部長兼米国本社コーポレートディレクターとして複数の大型案件を勝ち取り、アジア環太平洋地域のベスト・リーダーに選出される。その後レノボ米国本社のエグゼクティブディレクター・グローバル戦略担当役員、アディダス ジャパンの上席執行役員副社長兼営業統括本部長を経て、2009年にソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)、ホームエンタテインメント部門の日本・北アジア代表をつとめる。2014年、ハイアール アジア(旧三洋電機白物家電事業部門が母体)社長兼CEO就任。ハイアールグループの海外事業の中でも最も大きい地域となる日本、ASEAN諸国の14事業会社、6400人を統括。
 

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事