2009年にこの世を去ったキング・オブ・ポップ、マイケル・ジャクソン。そして、幻となった彼の最後のツアーのリハーサル風景を撮影したフィルムから、1本の映画が生まれた。それが『THIS IS IT』(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)だ。
当時、会社の清算も検討されるほど業績不振にあえいでいたソニー・ピクチャーズエンタテインメント日本法人(以降、SPEと表記)にとっては、まさに起死回生の商品である。私が同社の日本法人代表に招聘されたのは、ちょうどその頃だった。というより、同社が『THIS IS IT』の権利を有していることを知っていたから、会社再建を請け負ったのだ。
「プロの見立て35万枚」vs.「素人の見立て100万枚」
ところで、当時のSPEはこの『THIS IS IT』の販売本数をどのように評価していたのか。
「30万枚。頑張って35万枚」
これが、業界のベテランたちの評価だった。その根拠を聞いてみると、彼らは、数カ月前にアディダスジャパンというまったくの異業種から転職してきた、エンタメ業界とは無縁な私に、懇切丁寧に説明してくれた。
「すでに大手のレンタルショップや販売店には話をつけてあります。いちばん大きい2カ所を合わせても10万枚。あとは小さなレコード店だけで、全部合わせても30万枚でもきつい」
とっさに私は反論した。
「レンタルショップや販売店の客層は、20~40代の男性ですよね。女性や高齢者にもファンはいるはずですよ。日本の人口から考えれば、100万枚はいけます」
しかし当時のSPEのベテランたちは、「よそ者の素人に、何がわかる」という態度だった。私は異業界に転職するたびにこうした態度をとられてきたので、今さら激高するようなことはなかったが、むしろ火がついた。
「わかりました。じゃあ目標を200万枚にします」
業界のベテランたちは、「お手並み拝見」という態度だ。私も、たんかを切ったからには実行して、どちらが正しいかを結果で示さなくてはならない。
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