オリンピックからビジネスパーソンが得るべき教訓 なぜ、我々は判定やルールに不満を感じるのか

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とはいえ、本日議論したいのは「なぜルールに疑問を持つか」ではない。ビジネスでの学びのために、ここで注目したいのは、この「ルールが持つ絶対的な力」についてである。その競技の性質を決定づけ、それゆえに個別選手が活躍できるか否かをも決定づける、絶対的なもの。私たちはオリンピックで、このルールというものの理不尽なまでの力を目の当たりにした。

皆さんには、この機を逃すことなく、「ある領域を支配する、ルールの力」を学んでもらい、ビジネスに活かしてもらいたい。

ビジネスの世界にあるルールを理解する

ビジネスの世界における「競争のルール」とは何か。詐欺はいけない、贈収賄はいけない、窃盗はいけない、暴力はいけない……といった「法令上禁じられていること」「社会通念上、やってはいけないこと」も、もちろん大切なルールであるが、経営学の中ではもう少し踏み込んで、競争のルールが捉えられている。

たとえば「ムーアの法則」は、半導体産業を支配している、競争のルールである。米インテル社の創業者のひとり、ゴードン・ムーアが1965年に論文で提唱した「半導体の部品数は2年ごとに2倍になる」とする予測のことであるが、見事に1975年までの10年間に当てはまり、その後もおおよそ当てはまったことから、実際には経験則・予測であったこの現象に「法則」の呼び名が与えられた。半導体産業では恐るべきことに、現在に至るまでほぼこの法則が成り立っている。

ムーアの法則
出所:Max Roser, Hannah Ritchie - https://ourworldindata.org/uploads/2020/11/Transistor-Count-over-time.png

この法則性が意識され始めた1980年代からは、半導体産業では、ムーアの法則で予測されるスピードに沿って、技術者たちは研究・開発に取り組むようになった。コンピュータや通信機器などの関連産業も、ムーアの法則に従って半導体性能が高まることを前提に機器やアプリケーションを開発するようになった。経営者の投資の意思決定でさえ、ムーアの法則に支配されている。どんなタイミングで、どれだけの性能の半導体を、どれだけの規模で生産するか、この法則に沿って経営計画のロードマップが引かれてすらいるのである。

こうした「暗黙的だが、業界を支配している、競争の前提条件」は、どんな産業にも存在している。自動車産業では2016年以降、「CASE」という言葉が流行するようになった。Connected、Autonomous、Shared、Electricが、これから十数年の自動車の進化の方向である、と。ダイムラーAGの会長であったディエター・ツェッチェが、2016年のパリモーターショーで用いて以来、この言葉は業界で広く浸透し、自動車メーカーのみならず部品メーカーや関連サービス業界まで、この4テーマを軸に技術開発、事業開発が進められるようになった。

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