ロシア領侵攻でゼレンスキーは「勝ち馬」になれるか プーチン政権と軍部の溝も拡大中

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ウクライナ軍はすでに、クルスク州の占領地に軍司令部を設置している。この狙いはたんに軍事的占領の機構化だけではない。法的に未整備なロシアの地方制度とは異なり、住民の法的権利も意識した、住民にやさしいウクライナ軍の占領制度をロシア人住民に見せることで、プーチン政権への失望感を高めるとの思惑もひそんでいる。

ゼレンスキー政権はロシア国内での予想していなかった展開に注目し始めている。2023年6月に起きたプリゴジン派反乱事件を契機に軍部への不信感を強めているプーチン氏が、クルスク州における反撃作戦の総監督役にプーチン氏個人の警護隊メンバーだったアレクセイ・ジュミン大統領補佐官を任命したとの情報がモスクワに一時出回り、衝撃が走ったからだ。

プーチン政権と軍に溝

仮にそうなれば、クレムリンの執務室で大統領に作戦上の報告をするのは、ジュミン氏になる。本来ならゲラシモフ参謀総長など軍トップが就くべき役回りだ。プーチン氏と軍部との間でも溝がさらに拡大したと言える事態だ。

その後、ジュミン氏起用の情報は立ち消え状態となったが、会議の場で越境攻撃を阻止できなかったゲラシモフ氏をプーチン氏が面罵したと言われており、クレムリンと軍部という2つの権力機構の間にさらなる溝が生まれた可能性は高い。

プーチン氏は2024年5月に大統領5期目に就任した際、ショイグ国防相を解任した。その後も国防省幹部の汚職事件の摘発を進めるなど、軍部への締め付けを強化している。この背景には、軍部に対する自分のグリップが弱まっていることを懸念するプーチン氏の危機感があったといわれる。

プーチン氏にとってクルスク州など自国内に大規模な軍部隊を展開することは、ウクライナ侵攻作戦とは違い、国土防衛という問題だけでなく自らに対する軍事クーデターが発生する潜在的危険性をもつねに意識しておかなければならない重大な問題だ。

プーチン氏と軍部との溝に着目したゼレンスキー政権は、ロシアでの破壊工作を担当するウクライナのブダノフ国防省情報総局長を使って、何らかの大掛かりな破壊活動を展開し、プーチン氏と国民あるいは軍部との間の不満拡大を図る可能性もある。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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