2023年6月初めに始まったウクライナの反攻作戦は、局地的な進展があったものの、アゾフ海北岸への部隊到達など、年内完了を目指していた戦略的大目標を実現できない膠着状態のまま越年することになった。
なぜそうなったのか。この1年あまりを振り返りながら、同時に来年の見通しについても考えてみた。
膠着状態に陥った2つの要因
膠着状態に陥った要因は大別して2つに分けられる。純軍事的要因と、外交的、地政学的要因である。
さらに純軍事的要因を分析すると、3つの要因がある。①ロシア軍の実力をアメリカ、ウクライナ両軍が軽視し過ぎた、②驚くべきことだが、アメリカ軍がドローン兵器や電子戦能力を駆使する21世紀型地上戦への十分な理解を欠いていた、③アメリカ軍とウクライナ軍の間での反攻戦略を巡る対立が最後まで解消しなかった、ことである。
こうした3つの軍事的要因については、2023年12月4日付のアメリカの有力紙ワシントン・ポストが詳細に整理した形で報じたので、その主な内容を箇条書きで紹介する。
まず①と②については以下の通りだ。
・シミュレーションの結果、西側製武器を装備し、西側で訓練を受けたウクライナの突撃部隊であれば、空からの戦闘機による支援なしでも60日から90日程度でロシア軍の防衛線を突破して、アゾフ海北岸に到達し、ロシア軍の地上補給路を遮断できる、とアメリカ軍は確信していた。
・2022年秋の東部・南部戦線での相次ぐ敗退後に、ロシア軍は粘り強い戦力の回復を果たしたが、この能力をアメリカ軍もウクライナ軍も過小評価していた。ロシア軍の兵力や地雷戦能力を正しく評価できず、また、兵士の命をまったく顧みないロシア軍の異常な人海戦術への対抗策を準備できなかった。
・ウクライナ軍が今回直面したのは、至る所に攻撃用ドローンが上空から現れるなど近未来的武器が登場する大規模な塹壕戦で、アメリカ軍もNATO(北大西洋条約機構)軍も過去1度も経験したことがない戦いだった。それなのに、過去アメリカ軍が地上戦への支援策として、欠かさず実現していた制空権の確立がないままでウクライナ軍は戦った。
・バイデン政権はF16戦闘機などウクライナが強くアメリカに求めた強力な武器の供与に当初応じず、ようやくOKを出したのは反攻開始直前で、実際の供与は間に合わなかった。
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