ウクライナ総司令官「戦況は膠着」発言の真相 ウクライナ軍は冬季の攻勢を決定している

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ウクライナ南部・ヘルソンの陣地に描かれたウクライナ軍のザルジニー総司令官(写真・Ukrinform/共同通信イメージズ)

ウクライナでは2023年11月に入り、突然、軍制服組トップから「戦況膠着論」とも受け取れる発言が飛び出した。西側メディアからも反転攻勢の行方に悲観的な論調も出始めるなど、さまざまな動きや臆測で一気にざわついた。

実際に何があったのか。そして今後の反攻作戦は来年に向け、どのような方向に向かうのか。深掘りしてみた。

戦争の長期化を避ける5つの優先課題

「いったい何が言いたいのか」。11月初め、日頃、ウクライナ情勢を追っている内外ウォッチャーたちやキーウ駐在の各国外交官が目を皿のようにして、ある記事を読んだ。ウクライナ軍のザルジニー総司令官が11月1日付のイギリスの『エコノミスト』誌で公表した見解である。会見とエッセイの2つからなる見解の骨格的概要は以下の通りだ。

1. 両国軍の戦力が拮抗してきたため、ウクライナ軍の反攻は計画通り進んでいない。このままでは戦況が第1次世界大戦のような数年越しの「陣地戦」に陥る恐れがある。戦争の長期化は、国力で勝るロシアを利する。

2. これを避けるためには5つの優先課題がある。①地上戦を支援するための制空権確立、②ロシア軍が得意の電子戦を妨害する電子戦能力の向上、③ロシア軍の火砲能力を圧倒できる砲撃能力、④ロシア軍が敷設した広大な地雷原を克服できる駆除・探知能力、⑤予備兵力の準備態勢確立、である。

この見解はウクライナ内外で大きな波紋を呼んだ。2023年6月初めに始まった反攻について、軍制服組トップがまるで膠着状態に陥ったと宣言したかのようにも読めたからだ。

折から、ウクライナ軍は2023年9月以降、司令部を含め黒海艦隊がある南部クリミア半島に波状的な攻撃を開始し、東部・南部に続いてクリミア半島に第3の戦線を開くことに成功したばかりだった(詳しくは「クリミア攻撃の本格化で募るプーチンの憂鬱」参照)。

東部・南部でも目立った戦果はないものの、激しい戦闘が続いている。このように現実に戦況が動いている中、地上作戦に限ったものとはいえ、ザルジニー発言には多くのウォッチャーが戸惑った。筆者もその1人だ。

騒ぎはさらに拡大した。軍最高司令官でもあるゼレンスキー氏が2023年11月4日の記者会見で「膠着(こうちゃく)状態ではない」と述べ、ザルジニー氏の戦況分析を公の場で否定する形となった。

西側メディアでは大統領と総司令官の間で「対立」や「不協和音」が表面化したとの報道が出た。一般国民からはザルジニー見解に対し「反攻がうまくいっていないことの言い訳」との批判的反応も出たほどだ。

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