ロシアがウクライナ東部・南部計4州の「併合」を一方的に宣言してから丸1年となる2023年9月30日、プーチン大統領は記念のビデオ声明を発表し、「われわれは1つの国民だ。あらゆる試練を共に乗り越えていく」と締めくくった。
しかし声明は極めて短く、表情は厳しいままだった。前日に赤の広場で開かれた記念コンサートにも出席しなかった。本来なら、演説好きのプーチン氏のこと、会場で併合を自賛するスピーチをしていたはずだ。およそ盛り上がりのない記念日となった。
この背景には、もちろん、ウクライナ軍の頑強な反転攻勢を受け、侵攻が難航していることがあるだろう。しかし、この日のプーチン氏の心中にはもう一つ、屈辱的な状況がのしかかっていたと筆者はみる。2014年に併合したクリミア半島でのウクライナ軍の本格的なクリミア奪還作戦の開始だ。
対クリミア「連続攻撃」の9月
筆者は、東洋経済オンライン上で書いた『ウクライナが奪還作戦実行で感じた「手応え」』(2023年9月5日付)の中で「クリミアはもはやウクライナ軍のシステム的攻撃の対象になった」とのウクライナの軍事専門家の「予言」を紹介した。9月はその指摘通り、クリミア半島が反攻の最前線になったことを象徴する、「連続攻撃」の月となった。
主に東部と南部で展開されていた反攻作戦の全体状況は大きく変わった。連続攻撃の対象は、半島南部セバストポリに司令部を置く黒海艦隊と半島西部の防空レーダー施設だ。
これまでの主な攻撃事例を挙げてみよう。最初は、2023年8月24日未明、クリミア半島北西部タルクハンクト岬にあるロシア軍防空基地への攻撃だ。半島への初の上陸作戦を敢行したウクライナ軍が、半島全域の防空体制の要であり、ロシアの最新鋭防空ミサイルシステムであるS400を破壊した。
9月13日にはセバストポリにある艦隊の修理用乾ドックをミサイルで攻撃。この結果、ドックで修理中だった最新型潜水艦と部隊輸送艦が事実上修理不能になったうえにドック自体も使用不可能になった。
ウクライナ軍は侵攻直後の2022年4月、黒海艦隊旗艦の巡洋艦モスクワをウクライナ国産の巡航地対艦ミサイル「ネプチューン」で撃沈したが、これは単発の海上攻撃だった。セバストポリで艦隊の艦船と重要施設が破壊されたのは初めてだった。
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