クリミア攻撃の本格化で募るプーチンの憂鬱 2024年の大統領選に向けて権威失墜リスクも

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連続攻撃のハイライトになったのが9月22日の艦隊司令本部への大規模なミサイル攻撃だ。艦隊幹部を集めた会議の最中、イギリス製の空中発射巡航ミサイル「ストームシャドー」2発が会議室に命中した。この攻撃でビクトル・ソコロフ司令官を含め、将校34人が死亡したとウクライナ側が発表した。

その後、ロシア軍は司令官の死亡を否定したものの、明確に生存を示す映像など証拠を提示できていない。いずれにしても、プーチン政権にとって艦隊司令部が会議中に壊滅的攻撃を受けるという、屈辱的打撃になったことに変わりはない。

海軍のない国が大艦隊を攻める

今回の連続攻撃は、近代戦争史的にも異例ずくめだ。侵攻をウォッチするイスラエルの軍事専門家、グレゴリー・タマル氏はこう解説する。「本格的海軍を保有しない国(ウクライナを指す)が敵国の大艦隊を壊滅させようと作戦を行った例はない」。

そのうえでタマル氏は、今回の連続攻撃の主な特徴について以下のように指摘する。①作戦の複雑さ、②使用した武器の多様さ、③作戦の準備期間の長さ、だ。以下、先述した9月22日の艦隊司令部へのミサイル攻撃を例に、この3つの特徴を専門家の仮説も交えて説明しよう。

① この攻撃はウクライナ空軍、特殊部隊、パルチザン部隊などが協力した統合作戦だった。まずクリミアで活動するパルチザン部隊が艦隊関係者から会議の日程や場所についての情報を入手。目標位置をウクライナ軍のシステム上で設定した。

ウクライナ軍はこうした情報をアメリカの衛星通信システム「スターリンク」を通じて共有する情報のシステム化を実現している。パルチザンの一翼であるクリミア・タタール人部隊は偵察で得たロシア軍の防空ミサイルの位置情報も共有している。

攻撃終了直後、艦隊側が数十の入院用ベッドの必要性を緊急連絡していたこともパルチザンは報告していた。

② 実際のミサイル攻撃の直前に、おとり用のドローンを飛ばし、ロシア軍の防空ミサイルをこれに向かって発射させた可能性がある。弾頭が付いていない、おとり用ミサイルを使ったとの見方もある。

こうして防空ミサイルに迎撃される心配がなくなった空中回廊に、ウクライナ空軍機から発射されたストームシャドーが侵入し、目標を確実に捉えた。ストームシャドーは2段式弾頭を搭載している。1段目の弾頭は爆発によって建物の外殻に穴を開け、そこを通ってより大型の2段目が内部に到達する仕組みだ。

今回の司令部会議室への攻撃では床が完全に破壊されるほどの貫通力だったという。その意味で、先述のソコロフ司令官が無傷だったとは考えにくい。

③ 上記したように、一連の連続攻撃は明らかに一過性の攻撃とは考えられない。相当の助走期間があったことはまちがいないだろう。それだけに同様の攻撃は今後も続くだろう。

本稿執筆時点で、黒海艦隊はまだ保有艦船の90%以上残っており、ウクライナへのインフラ攻撃で中心になっているカリブル型巡航ミサイルの搭載艦もセバストポリに残っているといわれる。しかし、その他の多くの艦隊所属の艦船がロシア本土にある艦隊の別の拠点ノボロシースクに移ったという。

双方の港は約500キロメートルも離れており、今回の一連の攻撃で黒海艦隊は作戦遂行能力を相当削がれた。ウクライナ軍は既に独自開発した海上ドローン部隊なども使って、全艦隊艦艇を1年内にすべて沈めると豪語している。

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