ウクライナ総司令官「戦況は膠着」発言の真相 ウクライナ軍は冬季の攻勢を決定している

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③では、トクマク、メリトポリ方面を狙った攻勢を強めるとみられる。ザルジニー氏は先述した見解の中でも認めたように、ウクライナ軍は最大で幅20キロメートルに及ぶ異例の地雷原に計画通りの前進を阻まれている。

しかし一方で、アメリカ供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの砲撃により、メリトポリ方面の輸送路は相当被害を受け、ロシア軍の補給が相当苦しくなっているという。この間、ウクライナ軍はメリトポリ方面での戦況を詳しく発表しておらず、今後新たな動きを見せる可能性がある。

アメリカからの支援先細りを見通す

では問題はなぜ冬季に攻勢を掛けるのかだ。理由はいくつかある。まず、最大の要因は、2024年11月に大統領選を控えるアメリカからウクライナへの財政上・軍事上の支援が2024年は減少するとの懸念だ。

中東情勢の緊迫化もあり、このままでは2024年になると、アメリカはウクライナ情勢への関心を相当他方面に向けるだろうとの読みがある。そのため、ウクライナとしては、新たな攻勢に出ることで、アメリカ政界の関心を高めることを狙っている。

戦術的・戦略的戦果を挙げていけば、勝ち馬に乗るのが好きなアメリカ政界の特徴からみて、ウクライナへの財政的支援の削減を阻止できるのではないか、との計算がある。

もう1つは、1年前の苦い教訓だ。2022年11月初めにヘルソン市を陥落させた後、ウクライナ軍は後退するロシア軍への追撃をしなかった。この結果、何が起きたのか。

2022年末から2023年初めの冬季、追尾の憂いがなくなったロシア軍に南部ザポリージャ州などで大規模な地雷原を敷設して防御を固める時間的な余裕を与えてしまったのだ。これが今の南部での反攻作戦の難航につながっている。

ウクライナ軍としては、この苦い教訓を生かして、冬季も攻勢を続けることを選んだ。2023年11月半ばから2024年4月までの雪・雨の季節で、黒土地帯の東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)は土でぬかるみ重戦車は動けないので大規模な攻勢は難しい。

しかし、ザポリージャ州やヘルソン州は純粋な黒土地帯でないため、冬でもひどいぬかるみにならない。重戦車も動ける。

とはいえ、この冬季攻勢は当然ながら、リスク・フリーではない。ウクライナも賭けであることは承知している。ウクライナでは一部軍事専門家の間から、制空権の確立に大きな貢献が予想されるアメリカ製F16戦闘機が供与される2024年春以降までは、ひたすら防御に重点を置いた戦いに徹すべきとの意見もあった。

しかし、ゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官は、あえて上空からのF16による援護なしで、攻勢に出ることを選択した。ドローンなどでの上空からの支援を計算したうえでの判断だ。

ウクライナには、アメリカを含めた国際的支援体制をつなぎ止めるためにも、2024年前半までが勝負だ、との悲壮な決意がある。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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