ウクライナ総司令官「戦況は膠着」発言の真相 ウクライナ軍は冬季の攻勢を決定している

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その冬季攻勢の内容について、前述の軍事筋は以下のように明らかにした。

①ロシアが占領し続けている南部クリミア半島への軍事的圧力を高めるため、南部ヘルソン州との州境までウクライナ部隊が南下する、②黒海艦隊を含め、クリミア半島への攻撃をさらに拡大し、本格化させる、③苦戦が伝えられている南部ザポリージャ州でも要衝トクマクやメリトポリ方面への攻撃を強める、である。

①の南下作戦はすでに11月上旬に始まった。海兵隊と保安局部隊などの合同部隊が、ヘルソン州のドニエプル川西岸からロシアが実効支配する東岸へと渡河作戦を実施。装甲車両も運び入れた。11月17日には、複数の出撃拠点を確保したと発表した。

渡河開始当時、この渡河作戦の本当の狙いは不明だった。しかし同軍事筋は、州境まで南下を目指した作戦だと述べた。この地域には、ザポリージャ州でウクライナ軍の進軍を阻んでいる大規模な地雷原のようなものはないという。ロシア軍部隊も手薄だ。これは、ウクライナ軍の州境への南下作戦を警戒していなかったからだ。

いわばロシア軍の虚をついた作戦だ。ヘルソン州との州境に近い、クリミア半島北部の要衝アルミャンスクを目指しているとみられる。クリミア半島に続いて、ヘルソン州南部を第4の戦線にする戦略だろう。

ちなみに、ゼレンスキー大統領は11月初め、特殊作戦軍のホレンコ司令官を解任したが、この理由はホレンコ氏がこの南下作戦の実施に消極的だったと軍事筋は明らかにした。

②の今後のクリミア攻撃は、従来以上に大規模かつ、作戦範囲を広げたものになりそうだ。

大規模なクリミア攻撃を想定

クリミア半島南部のセバストポリに司令部を置く黒海艦隊は2023年9月以降のウクライナ軍による連続攻撃の結果、主要艦船の一部がロシア本土にある艦隊の別の拠点ノボロシースクに避難した。事実上の艦隊機能の喪失に近い状態に追い込まれている。

艦隊としての大規模な作戦行動はその後、1回も行われていない。ウクライナ軍としては、冬季攻勢の中で、イギリス製の空中発射巡航ミサイル「ストームシャドー」などで引き続き艦隊施設を空から攻撃する一方で、小型ボートや海上攻撃用ドローンを駆使した作戦を展開するだろう。

ゼレンスキー大統領は2023年9月末、世界初の海上ドローン艦隊の創設を発表している。前世紀的大艦隊を海上ドローン艦隊が攻撃する。まさに21世紀における新たな海戦の姿を象徴するものになろう。

さらにクリミア半島への上陸作戦も、より大規模で実施されると筆者は見る。これまでも小規模な上陸作戦は実施されていたが、「これらは予行演習のようなものだった」と軍事筋は指摘する。ドニエプル川渡航作戦と同様に、半島内に橋頭堡を築く狙いだろう。

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