第2の狙いとしては、クルスク州に占領地を有することでここを一種の緩衝地帯とし、今後のロシア側からの攻撃ペースを鈍らせることも狙っている。
さらに3つ目としては、ロシア軍には予備兵力面でも保有武器量の面でも、実は戦力上の余裕が少なくなっており「もはやロシアとのエスカレーションを恐れる必要はない」とのゼレンスキー政権の見方を実証するという狙いが潜んでいる。
先述したように、バイデン政権はこれまで、ロシア領内に対するアメリカ製武器による攻撃の全面解除を許していない。全面解除すれば、ウクライナ側の大規模攻撃がプーチン政権を怒らせ、戦争がさらにエスカレーションすることを恐れていたからだ。
しかしゼレンスキー政権からすれば、こうしたバイデン政権の現在の方針について、ロシア軍の実力を買いかぶり過ぎと考えているのだ。
プーチンへの批判が高まるか
これら軍事面での3つの狙い以外にも、ゼレンスキー政権はクルスク州を占領することでプーチン体制を揺さぶるという政治的狙いもある。越境作戦開始から2週間経っても、プーチン大統領による占領地奪還の動きが緩慢だ。
キーウの軍事筋は、ロシア軍がクルスク州に向けてウクライナのザポリージャ州やヘルソン州といった占領地から部隊を動かすことについて、「戦場での長距離移動はそれほど容易ではない」と指摘する。今後、越境作戦への対応を巡りさらに手間取れば、プーチン政権へ批判が高まるのは確実だ。
とくに今注目されるのが、クルスク州のセイム川以南とウクライナ領との間の地域に取り残された状態に陥ったロシア軍部隊の行方だ。セイム川にかかる3本の橋はウクライナ軍によっていずれも落とされたか、使用不能状態に陥った。
このため規模は不明だが、ロシア軍部隊は完全に出口のない状態に陥っている。ウクライナ軍はいずれこの部隊は降伏せざるをえなくなるとみている。仮にそうなれば、プーチン政権の権威失墜がいっそう強まるだろう。
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