ベンチャーの取り柄は何もないこと エムアウト社長・田口弘氏②

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たぐち・ひろし エムアウト社長。1937年生まれ。63年三住商事(現ミスミグループ本社)設立に参画。69年社長。2002年相談役就任とともにエムアウト設立。「マーケットアウト」の理念をBtoC市場へ展開中。日本を代表する現代アートコレクターでもある。著書に『起業革命「スタートアップ」のプロが伝授する事業創出のノウハウ』(小社刊)。

ミスミの経営から退き、エムアウトを立ち上げて10年目に入りました。私が重視しているコンセプト、マーケットアウトをそのまま社名にしています。「スタートアップファクトリー」と言っているのですが、目指しているのは起業ファクトリー。新しい事業を次から次へと作って、それを売却して食べていこうとしているのですが、やればやるほど大変だということがわかってきました。まだまだ道半ばです。

事業のタネはたくさんあります。でも、事業というのは、毎日作ることができる製品や、年に1回収穫できる農産物とは違います。最終的な商品として完成するまでに4~5年かかります。また4~5年経たないと気づかないこともあるのです。

エムアウトの仕事を通じて実感したのは、ベンチャーというのは、大企業と比べて、ほとんどいいところがないということ。資金力、人材、信用、ブランドなど、どれをとってもダメなんですね。でも、唯一ベンチャーが有利な点がある。

時価総額1000億円以上の企業を作りたい

それは、何にも持っていないことです。大企業は代理店や工場、社員などを抱えていますから、何か新しいことを始めようとしても、しがらみがあってできないことがある。だから、ベンチャーは大企業がやりたくてもできないことをやるしかない。何も持たないからこそ、できる仕事をやればいい。そんなこともわかってきました。

欧米では、何か新しいビジネスが出てくると、専門家がチームを作ってビジネスを展開する仕組みがありますね。日本は社長一人が孤軍奮闘するスタイルが多いといえます。今のビジネスは複雑になっていますから、一人の力では限界があり、いいものもダメになってしまうケースがある。非常に運がよく恵まれた人だけが成功し、ほとんどが失敗してしまうのです。

ベンチャー業界は、全体から見れば大赤字ですし、元気がありません。それを何とか立て直したいと考えています。そこで、エムアウトでは、ベンチャーを作るノウハウをどんどん蓄積しています。そのノウハウを生かして、ベンチャーが成功する確率を高めるインフラを作り提供していきたい。ベンチャーとしては、何とか食べられるようになれば成功といえるのかもしれませんが、それでは世の中を変える力にはなりません。われわれとしては、時価総額1000億円以上の企業を作りたい。その規模になれば、新しい時代のインフラとして認められるだろうと考えるからです。

週刊東洋経済編集部
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