高をくくっていないか「巨大地震」への財政の備え 復旧・復興の国債増発のため平時にすべきこと

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加えて、2010年代は日本銀行がデフレ脱却のために国債を大量に買い入れていたが、現在ではもはやそうではない。

2024年3月に、日銀はマイナス金利政策だけでなく、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)もETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)の新規買い入れもやめた。今や、国債の買い入れ額の減額についてペースを見計らっている。

今後は、これまでのように日銀頼みで国債の大量増発はできない。

「日銀が国債を買えばいい」はもう通じない

巨大災害発生直後ぐらい日銀は特別な対応をするだろう、とみるのは甘い。

災害発生直後には、復旧のための物資が必要となる一方で、生産設備が被災すると生産が滞る。供給が落ち込む一方で需要が増えるから、物価の上昇圧力が高まる。そんな状況で、日銀は金融緩和政策を積極的にはできない。東日本大震災はデフレ下だったから顕著にそうはならなかったが、現在は逆に物価が上がり始めている。

緊急時でも、政府が臨時的に長期債を低利で大量増発できる、と高をくくってはいけない。国債金利も上がり始めており、災害対応で巨額の国債増発が必要になって、必要な金額を発行できたとしても、それには相当な利払い費を後に要することになる。

そう考えると、巨大災害発生後の復旧・復興のために必要とする国債増発を、市場を混乱させないような規模でできるような財政運営を平時から心がけることが重要となる。

緊急時には、当該年度予算のための新発国債と、当該年度に満期を迎えて借り換える借換債に、臨時的な国債増発が加わる。これらを合計した国債発行が、市場で円滑に行える程度に抑制できるかが問われる。そのカギとなるのは、当該年度予算のための新発国債の抑制に他ならない。

巨大災害が仮に起きたとしても、復旧・復興のための国債増発が支障なくできる程度に、平時から新発国債を抑制し、財政余力を確保しておかなければならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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