「障害者向けサテライトオフィス」にみる可能性 労働者として能力を発揮、仕事のやりがいも

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大塚商会に施設を提供しているのはHANDICAP CLOUD社(東京都新宿区)だ。新宿と横浜、大阪の計5カ所でサテライトオフィス事業を展開、ビルのフロアをブースごとに区切って顧客へ貸し出す。

1席あたり月額は最低10万円ほどからの価格設定だ。看護師らによるケアなどのサービスもこの料金に含まれる。同社の森木恭平社長は「自社で障害者向けのオフィス環境を整えるより、結果的に安くなる」と自信を見せる。

HANDICAP CLOUDのサテライトオフィスで働く人の約9割が精神障害者で、定着率は95%程度という。2021年の参入時に約100席だった席数のキャパシティは、2024年に約700席まで拡大。首都圏では最大級の規模を誇る。関西への進出も始め、2025年には計1000席を突破する見込みだ。

需要を集める背景には、法定雇用率の上昇に加え、「仕事の質」を問う風潮の強まりがある。きっかけは2023年1月、業者が企業に農園を貸し出し、そこで障害者を働かせる就労形態が一部メディアに「雇用代行ビジネス」と報道されたことだ。

「業者に金を払い、雇用率を買っている」という論調だった。これを受け、障害者雇用向け農園大手で東証プライム市場に上場するエスプールの株価は一時ストップ安に。厚労省も同年4月に雇用ビジネスの実態調査を公表し、「経済社会を構成する労働者の一員として能力発揮の機会を与えていると言えるか」などと懸念を示した。

「精神障害者は働けない」は誤り

森木社長は「貸し農園とサテライトオフィスはまったくの別物」と強調する。前者が本業とは無関係の農作業に従事してもらうのに対し、後者は一般社員と勤務地の違いはあれども、社内の一部署として機能させられるからだ。労働者が得る給与の水準も農園型より高い。

「顧客の中に管理を丸投げしてくるような会社はない。あくまでも障害者を戦力化するための手段として当社が選ばれている」(森木社長)。農園型就労への批判が高まると、HANDICAP CLOUDへの問い合わせ件数も増加。現在は説明会を開けば、毎回満席になるほどの盛況ぶりという。

同社は2019年から障害者向けの求人サイトも運営する。そこで直面したのは、軽度の身体障害者に人気が集中するという現実だった。対応しやすそうな求職者を企業が取り合う一方、精神障害者は敬遠されていた。

「『精神障害者は働けない』という先入観はいまだに根強い。でも、それは誤りだ。サテライトオフィスは今後、障害者雇用を支える社会インフラになっていく。事業規模を拡大させるため、近いうちの上場を目指す」と森木社長。新たな就労の選択肢は広がるだろうか。

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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