「障害者向けサテライトオフィス」にみる可能性 労働者として能力を発揮、仕事のやりがいも

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2人は人事採用課に所属し、中途採用の書類審査や経理の補助、データ入力などの事務と幅広い業務に従事。「もっと会社に貢献したい。長くここで働きたい」と笑顔で口をそろえ、仕事に見出したやりがいを感じさせた。

それまでも障害者雇用に熱心だった大塚商会が、新たにサテライトオフィスを導入したのは、2022年4月だった。背景の1つに採用環境の変化がある。厚生労働省によると、2018年に約10万人だった精神障害者の新規求職者数は、2023年に約14万人まで増えた。

同期間で身体障害者の求職者数は減少、知的障害者は横ばい。つまり、高まる法定雇用率を達成するためには、精神障害者の積極的な採用が不可欠となったのだ。ただ、精神的な疾患を持つ人の就職1年後定着率は、約50%にとどまるとのデータもある。

精神障害は症状が人によって異なり、特性を把握しやすい身体障害や知的障害と比べて、受け入れの難易度が高い。障害者の就職支援に携わる企業の社員は、「必要な配慮を得られず、より心を病む人もいる。自殺してしまう最悪のケースも珍しくない」と明かす。

休憩スペースの確保や看護者の配置など、効果的な施策はある。だが、自社で精神障害者向けに最適化した環境を実現するのは、スペースやコストの制約で難しい。そこで大塚商会は、整備されたオフィスを社外へ求めることにしたのだ。

いつしか人事採用課の「分室」に

当初は4人の雇用から始め、徐々に規模を拡大してきた。人事採用課の土谷知子係長は「業務の切り出しが最大の課題だった」と振り返る。当初は軽作業ばかりを頼んでいたが、精緻な仕事ぶりに驚かされることがたびたびあったという。

精神障害者の中には、物事へのこだわりが強い反面、集中力は非常に高い人もいる。1週間かかると想定した依頼を3日で片づけることもあった。「特性をフィットさせれば、大きな戦力になる」と考えた土谷係長。できそうな業務がないか、社内の各部署を回って尋ねた。

大塚商会
大塚商会人事採用課の土谷係長。自身も身体障害を抱える(記者撮影)

その結果、以前は外注していた事務処理を引き受け、内製化に成功。経費の削減に貢献し、存在感を認められた。他部署からも新たな仕事を請け負い、一般社員の負荷軽減や残業抑制につなげた。人手は足りなくなり、採用が活発化した一方、退職者は平均で年間1人程度と定着率も高い。

いつしかサテライトオフィスは人事採用課の「分室」のような存在に。回線はイントラネットを引き、機密情報も取り扱う。業務によっては東京・飯田橋の本社へ出社してもらう日もある。関西にも拠点を設け、障害者10人を追加で雇う方針だ。土谷係長はこう力を込めた。

「1人1人としっかり向き合えば、障害に関係なく活躍してもらえる。そのためのフォローを受けられるのが、サテライトオフィスの利点だ。彼らは会社にとってなくてはならない存在。今後はキャリアアップの仕組みを整えていきたい」

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