Z世代を対象に「不安ビジネス」が蔓延する理由 財務に優れた日本企業は経営でも舵を切れるか

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たとえば、「社員を頑張らせる」というのは、会社の利益を増やす伝統的な方策の一つだ。現に一昔前であれば、とあるメーカーで社員たちが製品開発のためにほぼ年中無休で働くといったことが、美談として語られていた。だが今は、莫大な労働投入によってイノベーションを生み出す、という手がとれる時代ではない。また、「生産を増強させる」という方策もあるが、こちらも環境規制の厳格化などがあって、簡単ではない。

こうした状況を踏まえると、「客の不安を煽るだけ」で需要を生み出せるビジネスは、むしろ安パイとすら言えるかもしれない。もちろん消費者契約法など不安ビジネスを規制する制度はちゃんとあるのだが、すべてを規制できるわけではない。

問題は日本企業の財務状況ではない

では、不安ビジネスをやらざるをえないほど日本企業は追い詰めてられているのであろうか。実は、決してそんなことはない。ここ15年ほどずっと、日本企業の現金・預金、利益剰余金、売上高経常利益率は右肩上がりだ。つまり、日本企業の財務状況は非常によくなっている。また、「労働時間あたりの生産性(これは労働生産性の一部分であり、そのものではないことに注意)」で言えば、他国に比して劣っているわけでもない。

となれば、考えられるのは、多くの日本企業がリスクを取らなくなった、投資をしなくなったという仮説だ。日本企業は特に「経済的競争力資産」への投資(広告宣伝、組織改編、Off-JTなどの費用)が英米独仏に比べて、著しく低いことがわかっている(※1)。要するに、日本企業は人と会社組織に投資をしないのだ。

日本でも株主資本主義の台頭が指摘されているが、株主に還元するようになったから投資をしなくなったのではなく、投資をせずに利益をため込んでいるから株主が要求を強めて還元が増えている、というのが時系列としては適切だとみられる。

リスクをとらなくなった企業にとって、不安ビジネスは実に魅力的だ。ローリスク・ローコストに需要を生み出すことができる。若者の不安を煽るビジネスがはやる背景には、そんな日本企業の経営方針があるのかもしれない。

「日本企業は財務状況が良くなってますけど、この停滞感はなんなんでしょう」。幾人かの経営者にこの問いをぶつけると、即答された。「私からしたら、現金を貯め込むほうがリスクですよ」。「それは財務であって経営じゃないでしょう。経営を良くしないと」。経営のためのリスクをとることこそ、若者のためにできることではないだろうか。

※1  金榮愨・権赫旭・深尾京司(2019)「日本経済停滞の原因と必要な政策:JIP 2018 による分析」『RIETI Policy Discussion Paper Series』19:1-21.

舟津 昌平 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

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ふなつ しょうへい / Shohei Funatsu

1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都大学大学院経済学研究科特定助教、京都産業大学経営学部准教授などを経て、23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

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