BOPビジネスの正しい進め方《第2回》--社会課題を解決しながら成長する新興国の多国籍企業
野菜を洗濯機で洗うというのは、残留農薬による食の安全性問題が深刻であるがゆえのニーズだが、最初にこれを掘り起こしたのは、中国の家電メーカーのハイアールだ。7月下旬に「三洋電機の白モノ家電事業を買収する」と発表するなど、日本でも一定の知名度のあるハイアールは、中国での家庭用洗濯機分野ではリーダー的企業である。
農薬が野菜や果物に残っているという不安を抱いているのは中国だけではなく、他のアジア諸国でも共通している。「洗濯機は衣類を洗うもの」という固定観念から脱却し、「野菜も洗える」ほど堅牢な洗濯機を売る。それによって、食の不安という課題解決も図ろうという革新性が、中国国内だけでなく、他の新興国市場の需要も取り込める可能性をもたらしている。
新興国の企業にとってBOP層は顧客、従業員、サプライヤーなどバリューチェーンに取り込むことが必須の成長条件となる。BOP層を巻き込むためには単に廉価なものを売るだけでなく、同時に社会課題を解決するビジネスモデルであることが必要なのだ。
チャイナモバイルは5億人強もの契約者を抱える世界最大の携帯電話事業者だ。中国国内で販路を広げようとすれば貧しい農民が多く住む内陸部に進出することが不可欠であった。そこで貧困層に携帯電話を浸透させるために、携帯電話やインターネットの使い方のトレーニングを行い、最新の農産物のマーケット情報や農業技術の知識などが簡単に得られるようにした。
このことが、弱い立場に置かれていたいた貧しい農民らに構造転換をもたらし、貧困からの脱却を目指すチャンスを与えることにつながっている。
これらの例を紹介したのは、日本企業は本社が現地にないからBOP市場では不利であるということを言いたいためではない。重要なのは、「社会課題を解決したいと本気で思っているかどうか」にある。