プロが薦める「ご当地やきとり」の奥深き世界 その数は全国に30種類もある

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長野県上田市では、“美味だれ(おいだれ)”と呼ばれる、おろしにんにくとしょうゆを合わせたものをかけるのが定番。ちなみに「おいだれ」は上田の方言で、慣れ親しんだ仲間たちに対して使う「おまえたち」という意味

埼玉県東松山市のみそだれや山口県長門市のガーリックパウダーは有名だが、他にも例えば長野県上田市では「美味だれ(おいだれ)」というニンニクしょうゆのタレをかけるご当地やきとりがある。

本来は卓上の坪に入っていて、提供されたやきとりを、大阪の串カツの如く、セルフでドボンとつけていたそうだが、衛生面を鑑みて、上にかけてから提供するのがスタンダードになったそうだ。

他にも、神奈川県横浜市の野毛では、辛みそをつけながら味わうのが一般的だったり、沖縄では特に屋台、もしくは屋台から進化したやきとり店舗で、タレや塩といった定番の味付け以外に、ニンニク、みそも選べたりするところが多い。

「見せ方の違い」でご当地やきとりを演出する地域もある。

やきとり店なのにいけすがあり、魚が泳ぐのが定番スタイル。発祥店のご主人が鹿島出身で、魚関係のルートがあったため。呉のやきとり店主は活魚で刺身をおろせないといけない

例えば、栃木県栃木市の太平山。太平山神社を中心に11軒の茶店があり、こちらでは「やきとりと玉子焼き、お団子」の3点セットで提供される。出自は古く、その昔、夜泣きする鶏は災いを招く不吉なものとして、太平山に奉納する風習があったそう。奉納された鶏が産む卵を集めて玉子焼きを、鶏肉はやきとりにして供養したのが最初らしい。他にも、広島県呉市のやきとり店は必ずいけすがあり、魚の活き作りが味わえる。

串に刺さないやきとり

昨今のやきとり業界では「皿やきとり」という新概念が注目されつつある。前述のとおり、やきとりの定義は鶏に限らず豚などでも良いが、「串に刺す」と書かれている。にもかかわらず現実には串に刺してなく、皿に「焼いた鶏」が載っているご当地グルメも存在する。

最たる例が前述の愛媛県今治市。他にもこの系統は全国的にとても多い。例えば、北海道旭川市には「新子焼き」と呼ばれる若鶏の半身焼きが戦後からずっと提供され、人気を博している。香川県丸亀市を中心とした「骨付鳥」も、親鶏もしくは若鶏のもも肉をオーブンやフライパンで焼くスタイルで、この系統に属す。形状は異なるが、宮崎のもも焼きや、鹿児島のごて焼きも、骨付きもも肉を焼いたものだ。

川之江市、伊予三島市、宇摩郡土居町、宇摩郡新宮村が平成16年に合併して誕生した四国中央市のやきとりは鶏もも肉を「揚げ」ている。クリスマスの時期以外にも一年中大評判だ。最近は「揚げ足鳥」というネーミングを考案し、やきとり界から卒業を目論んでいるとか

そんなご当地やきとりだが、最後にひとつだけ「皿やきとり」に分類される特異なタイプを紹介しよう。それが愛媛県四国中央市の「四国中央やきとり」。発祥は川之江町で、この界隈では、鶏もも肉を油で揚げたものを「やきとり」と言い張っている。

もっとも最近は、さすがに「焼き」じゃないのにやきとりはマズいと、新たに「揚げ足鳥」というネーミングが考案された。だが、今でも「やきとり」で通じるのだ。

はんつ遠藤 フードジャーナリスト

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はんつえんどう / Hantsu Endo

1966年東京都葛飾区生まれ。東京在住。早稲田大学教育学部卒業。海外旅行雑誌のライターを経て、テレビや雑誌、書籍などでの飲食店紹介や、飲食店プロデュースなどを行うフードジャーナリストに。ライターとして執筆、カメラマンとして撮影の両方を1人でこなし、取材軒数は8000軒を超える。『週刊大衆』「JAL(Web)」などに連載中。また近年は料理研究家としてTVラジオ雑 誌などで創作レシピを紹介している。著書は『はんつ遠藤のうどんマップ東京・神奈川・埼玉・千葉』『おうちラーメン かんたんレシピ30』『おうち丼ぶり かんたんレシピ30』『全国ご当地やきとり紀行』(以上、幹書房)など。

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