日経によるFT電撃買収は、うまくいくのか わずか2カ月で大型買収を決めた事情とは?
「絶対に、ない」--。2013年までピアソンCEOだったマジョリ・スカルディノ氏は、幾度となくあったFT紙の売却話に対し「私がいる限り、売らない」と常に否定してきた。ネットニュースが人気を得て、紙の新聞が苦戦している時代に、歴史もブランド力もあるFTでさえ、売却の噂が絶えなかった。スカルディノ氏から現CEOファロン氏の移行で、売却話に道が開いた格好だ。
これまでにFTを買収するのではないかと言われたのは、米ニュース社のルパート・マードック会長や米通信社ブルームバーグを立ち上げたマイケル・ブルームバーグ氏などである。トップの顔が思い浮かぶ、そうそうたる名前ばかりが出ていた。
ちなみに、アマゾンのジェフ・ベゾス氏が2013年に米ワシントン・ポスト紙を買収した時の価格は2億5000万ドル、マードック氏が米ウオール・ストリート・ジャーナルを所有するダウ・ジョーンズを2007年に買収した時は約50億ドルだったといわれる。
23日朝(ロンドン時間)、過去58年間FTを所有してきたピアソンがいよいよ「売却について高度な段階の交渉に入った」とロイターが報じた。これに続いて「ブルームバーグが買い手だ」という記事もあったが、数時間後に、正式な買収リリースが出たことになる。
FTによると、最終段階の交渉は日経と「欧州でもっとも成功した新聞」とされる、独アクセル・シュプリンガー社との戦いになった。シュプリンガー社との交渉は1年前から続いていたが、日経が話に加わったのは2カ月ほど前だった。つまり、後から出てきた日経が横取りをしたようなかっこうである。
攻めに転じた日経新聞
日経は今年3月26日付で喜多恒雄社長が代表権のある会長に就き、岡田直敏副社長が社長に昇格したばかり。この新体制になってから手を染めたのが、この買収だ。幹部によると「喜多さんは『シリコンバレーの会社に出資をすることは重要』と判断してエバーノートに23億円出資。その後、国内でいくつかのベンチャーに出資するなど、新しい動きを進めてきた。今回の買収も、喜多会長が中心になって進めたもの」と解説する。24日午前に開かれる同社の臨時取締役会において、今回の買収について説明がなされるようだ。
1960年代、日経は圓城寺次郎という不世出の経営者のもとで、新聞製作の電子化、日経産業新聞発刊、マグロウヒルとの合弁会社(現在の日経BP)設立、テレビ東京買収、日本経済研究センター設立など、飛躍の基盤を作った。時を経て、2000年前後には市場取引システムにまで手を染めるブルームバーグのようなポジション獲得を目指し、大きな損失を出したことがある。それ以降はしばらく、「自前主義」のモードにあったが、喜多時代に入って、攻めに転じ、ついに圓城寺時代にもなしえなかった大攻勢に打って出ることになった。
この日経による買収をFTはどう受け止めたか。
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