日本の公的年金制度において基礎年金の給付水準が低いことは、従来指摘されていた。今回の財政検証のオプション試算では、拠出期間の延長が効果があると示されたにもかかわらず、政府は、この改革を行わないことを決めた。就職氷河期世代の人たちがこれから退職期を迎えることを考えると、この決定は大きな問題だ。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する――。野口悠紀雄氏による連載第125回。
保険料納付期間延長案の見送りは問題
日本の公的年金制度は、退職後の生活のために十分な水準の給付をしているだろうか?また将来の見通しはどうか?
7月3日に公表された2024年財政検証の結果を見ると、厚生年金の場合には、5年後の所得代替率は、想定された4つのケースのどれでも、5割を回る。また高い成長率を仮定したケース1ケース2では、長期的に見ても、2120年まで5割を上回る(所得代替率とは、夫婦の年金額が、現役世代の男性の手取り収入の何%に当たるかを示すもの。政府は将来もこれが50%を下回らないようにすることを目標としている。2024年度の「所得代替率」は61.2%)。
このため、日本の公的年金制度は、安定的な給付を継続してくれるとの印象が広がっている。そして、政府は、懸案となっていた国民年金の保険料納付期間を延長する改正を、今回は見送る方針を決めた。
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