iPhoneの画面の縁は虹色に輝き、文章が表示される部分に虹色のバーが現れる。ユーザーは「ここに文章が現れるのだ」と気付き、そこに注目する。すると、虹が波打つような効果とともに文章が生成される。
アップルの端末に搭載されたチップの処理速度がいかに速いとはいえ、生成AIには処理するための時間が必要だ。この派手な虹色の効果は、その待ち時間を感じさせないために使われているのだ。
生成AIで画像を作る機能においては、さらに長い待ち時間のために、虹色の玉が脈打ち、さまざまなワードが周囲から浮かび上がり(通常の生成AIでは「プロンプト」と呼ばれる、殺風景な画像)、虹色の玉の周りをフワフワと漂って、最終的に膨れ上がった虹色のフレームの中に絵柄が生成される。
数多くの写真や動画から、家族を感動させる素晴らしいムービーを作るMemory Movieの場合は、生成にさらに時間を要し、数多くの写真が立体的なタイルのように集まり、脈動し、虹色の光に包まれる大仰なトランジションが流れる。
しかし、これはこけおどしではなく、これから作られるムービーに入る(かもしれない)写真や動画がちゃんと含まれており、プロンプトに相当する文字群も含まれており、実に芸が細かい。
これこそが、「アップルの魔法」だ。誤魔化しではなく、ユーザー主体の使い勝手を追求した結果と言える。
食事だけポンと目の前に放り投げられるようなディナーに、人々は大金を払わない。豪奢なレストラン空間があり、美しい所作を持つスタッフがサーブするからこそ、人々は高級レストランにお金を払うのである。
AIをApple Intelligenceと呼んだ理由
Apple Intelligenceには、もうひとつ注意深い“防御の魔法”もかかっている。
それは、AIに対する人々の反感を、アップルのほうへ引き寄せないようにするための魔法だ。
現在のAIは技術の進歩とともに、さまざまな問題も生んでいる。事実と異なる回答を出力するハルシネーションの問題もあれば、莫大な電力消費の問題、フェイク画像などの問題などだ。また、著作権侵害の懸念や、人の仕事を奪うという根強い反感もある。
Apple Intelligenceは、それらの問題に対して注意深い対策を講じている。電力消費の問題は、そもそもApple Siliconの低消費電力もあるし、オンデバイスで行う処理も多い。フェイク画像の問題については、そもそも写真と見間違うような画像を生成しない仕様になっている。
そもそも、AIを“Artifical Intelligence”ではなく、“Apple Intelligence”としたところに、AIに関する諸問題とアップルは関係ないですよという意思表示になっている。
ユーザー心理を巧みに読み、世論を巧みに読み、後出しジャンケンと言われながらも大きな問題を起こさず、キッチリ収益を得られる製品を完成させてくる戦略の深さこそ、アップルの最大の魔法なのかもしれない。
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