「虎に翼」"振り切りキャラ"で異例ヒットの背景 王道じゃない異色の朝ドラ、なぜウケた?

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いまの朝ドラブームの火付け役となった『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)で語られた名台詞に「見えんでもおる」というものがある。

これは妖怪、あるいは亡くなった人たちと人間は共生しているのだという認識だが、『虎に翼』の場合、現実に存在しているにもかかわらず言及される機会の少ない少数派の人たちの存在を、当たり前にテレビのフレームの中に存在させようとしている。見えなくない、そこにいる、ということなのだ。

とりわけ第11〜13週にかけて続々と、先入観を揺さぶる描写を盛り込んできた。

まず、寅子の同期の轟(戸塚純貴)の、同性の友人・花岡(岩田剛典)への恋愛感情らしきもの。それまでそれらしき素振りはなく、轟自身も自覚がなく、よくわからないながら彼が自分にとってとてもかけがえのない存在であったことだけは自覚するという場面が突然描かれたことに、共感する視聴者、戸惑う視聴者、さまざまな意見がSNSで飛び交った。

この轟のエピソードははっきりした答えを出さず、そのままになっている。はっきりしないものもあっていいということなのだろう。

虎に翼
寅子(写真手前右)と明律大学の同級生たち(画像:NHK『虎に翼』公式サイトより)

次に、寅子の兄嫁で、30代の花江(森田望智)と16、17歳の未成年との恋愛疑惑。

寅子が、戦争孤児の道男(和田庵)を猪爪家に居候させると、彼は花江に親しみを覚えていく。夫を戦争で亡くした彼女に夫の代わりになれないかと切り出し、花江の子どもたちは許容できず取っ組み合いの喧嘩がはじまった。道男もまた、自分の真意が自分でもわかっていなくて、よくよく気持ちを整理すると、家庭の愛に恵まれなかったため、猪爪家の子どもの一員になりたかっただけだった。

“理想形”ではないヒロインだって、いていい

年上女性と少年のエピソードは、問題解決後も「こんな色男がいたらうれしいだろう」みたいな発言もあり、どこまで親子的な心情で、どこまで恋愛なのかはっきりしない描き方をあえてしているようにも見える。

血のつながらない男女の関係性には恋愛以外にも、もっといくつもの可能性があっていいということと筆者は受け止めた。

小さな息子が、みるみる道男の存在を肯定していく流れなど、どうにもうまく咀嚼できない視聴者もいるだろう。おそらく、作者はそういう反応も織り込み済みなのだろう。

そして受け止めきれない人のことも肯定している。許容できてもいいしできなくてもいい。ただし、この社会には、自分の認識をはるかに超えた人生がいくつもあるのだ、とばかりに作者はせっせとこれまでにドラマで描かれてきた規定路線を超えた人物を描こうとしている。

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