いきなり何かを話してくれといってもそう簡単には思いつかないし、いろいろあってどう話していいかわからないという人も多いが、「インタビュー」というメディア(手段)なら、質問に一つ一つ答えていけばいいので、話しやすいし、身近な人からの質問なら緊張も和らぐ。
孫がおばあちゃんに、妻が夫に、子供が母親に、生徒が恩師に、これまで日常生活では問いかけたことのないような質問を投げかける。そこから、思いがけない答え、ストーリーが飛び出してくるのだ。
インタビューはデータ化されて、連邦議会の図書館に公式の記録として保存され、一部はラジオの番組の中やPodcast、インターネット上で紹介され、多くの人々にシェアされる。こうした活動は、主に寄付などによって賄われており、これまでに実に5万人以上のストーリーが記録され、共有され、保存されてきた。
スマホアプリを使ってストーリーを収集
インタビューはこれまで、国内数カ所の常設ブースや移動ブースで行われてきたが、新たにスマホのアプリを導入し、誰もが自宅などで簡単にアプリを使って録音し、共有できる仕組みも始めた。
こうやって、集まった貴重な「証言」は一つ一つに驚くほどのドラマと感動が詰め込まれている。差別と闘った話、障がいを乗り越えた話。切ないラブストーリーなどなど。筆者などは、聞くたびにいつも号泣してしまうのだが、冒頭のストーリーのような「ほろり」とさせる話、びっくりするような話、心を打つ話など、様々ある中で、「生きること」や「絆」の価値を改めて認識させられる。人の苦しみ、悲しみ、喜び、生の感情にあふれたストーリーは人や社会や国家までを動かす力を持っている。
翻って、日本では個人が「ストーリー」を語る機会が極端に少ない。「以心伝心」的な文化ゆえか、公式の場でも、親子や夫婦、友人の間でも、本当に腹を割って、自分の根本的な考え方、信条を話したり聞いたりする場面はあまりないように感じる。それに比べて、アメリカ人は驚くほどに何でも「ぶっちゃける」。自分の失敗、恥ずかしい話、自慢話。日本人は絶対に話さないだろう打ち明け話を人前であろうと、テレビカメラの前であろうと、平気で堂々と話す。
そんな話したがり、出たがりが多いから、こっちのリアリティショーはネタに事欠かないし、そういう「ぶっちゃけカルチャー」がアメリカ人のコミュニケーション力を育む背景にある、ともいえるかもしれない。「下品だ」、「日本の文化には合わない」という人もいるかもしれないが、しょせん、人は口を開かなければ、理解し合えない。孤独な高齢者、子供の虐待など、無関心や見て見ぬふり、口を閉ざして自らの殻に閉じこもる人々が生むひずみを見ると、もう少し、人と人とが本音で語り合う機会があってもいいのでは、と感じてしまう。
StoryCorpの取り組みは、「人が人をインタビューする」という行為が、固く閉ざした心のカギを開け、本音を引き出し、新たな絆を生み出すことを実証している。日頃コミュ力不足だと感じる皆さんも、親や友人、パートナーなど身近な人を思い切って、「インタビュー」してみてはいかがだろうか。大切な人の今まで気づかなった一面を発見し、新しいつながりが生まれてくるはずだ。
次回はStoryCorpで共有された感動ストーリーをいくつかご紹介したいが、今回と次回2回に分けて、インタビューで、相手の心を開くパスワードとなる「魔法の質問10問」を黄金律としてシェアしたい。これらの質問は、StoryCorpの「おすすめのインタビュー質問」の中から筆者が抽出し、アレンジしたものだ。
② あなたの人生で最も幸せだと感じた瞬間はどんな時でしたか。反対に悲しいと感じた時は。
③ あなたが人生で学んだ最も重要な教訓は何ですか。
④ あなたは自分のどういったところを誇りに思っていますか。
⑤ あなたが人生でたった一つ覚えておきたい記憶と言ったら、何ですか。
いかがだろうか。即答が難しそうな質問も多いが、聞かれた人の記憶の重い檻の戸を開き、自分を見つめなおすきっかけとなるはずだ。是非お試しいただきたい。
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